最新記事

平昌五輪

南北合同チームに韓国国民が猛反対 文大統領は映画で学ぶべきだった?

2018年1月30日(火)18時15分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

ファン・ボヨンは、1月21日BBCラジオ放送に出演し、今回の南北合同チームに関して反対する意見を語った。「政治的歴史を作り上げるためにスポーツに政治を持ち込むことは、やってはならないことだ」と発言し、実際に平昌オリンピック女子アイスホッケーチームの国家代表チームの選手たちと電話で話したところ、「かなり落ち込んでいた。精神的ストレスをかなり受けているようだった」と語った。

オリンピック女子アイスホッケー国家代表チームであるイ・ミンジ選手は、自身のSNSに20日「合同チームの話を初めて聞いたときは、不可能だと思っていた。今のこの状態が信じられない」と心境を公にしている。

マイナースポーツを合同チームの対象にした文政権

映画で描かれたファン・ボヨンの参加した2003年のアジア大会とはいえ国際大会なのにもかかわらず、日本、韓国、北朝鮮、中国、カザフスタンの5チームしか参加をしていない。また、映画の最後には字幕で「2016年現在、韓国の公式な女子アイスホッケーチームは国家代表チームのみである」とクレジットされている。韓国で女子のアイスホッケーはかなりマイナーなスポーツなのだ。実際世界ランキングでみても、韓国は22位の位置にある。

そんな中、16日に李洛淵(イ・ナギョン)首相が発した発言が波紋を呼んだ。「なぜ合同チームなのか?」「しかもこの時期に?」「なぜ女子アイスホッケーチームなのか?」など、様々な国民からの批判の声が出ている中、李首相は「どうせメダルを取れる圏内のチームではない」「韓国の国家代表チームの最終的な目標はオリンピックで1、2勝することだと聞いている」と発言した。これに対して、「選手にあまりにも失礼だ」と多くの非難の声が集まり、李首相は3日後の19日に謝罪する事態になった。世論調査では、72%もの国民が南北合同チームに反対しており、なかでも30代は82%もの人が反対している状態だ。

今回の女子アイスホッケーの件を含め、この平昌オリンピックに向けての全体的な南北融和政策は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率にも影響を及ぼしている。就任以来高い支持率を維持してきた文大統領だったが、25日発表の世論調査によると政権発足後初めて50%台にまで落ちてしまった。社会的弱者に寄り添うイメージで登場した文大統領だったが、今回の南北合同チーム結成に関しては、マイナースポーツなら南北融和という大義のために選手たちが涙を飲んでも構わない、という強権的な姿勢だと思われたようだ。

あまりにも北朝鮮に手厚く接する大統領と今回のオリンピックを、平昌(ピョンチャン)オリンピックではなく、平壌(ピョンヤン)オリンピックだと言う皮肉もオンライン上で見かけるようになった。

『ハナ 〜奇跡の46日間〜』『国家代表2』共に、困難を乗り越えた選手たちが最後にはスポーツを通じ、お互いを認め合い、心を通わせるシーンが描かれている。また、国家断絶で離ればなれになってしまった家族が、後にオリンピックや世界選手権の舞台で選手同士として再会できることも描いている。

すでに北朝鮮と韓国の選手による合同練習も開始された女子アイスホッケー合同チームだが、政治的意図で編成されたこともあり、最終的にオリンピックの試合に無事出場できるかどうかは開けてみるまで誰も分からない状況だ。映画のようなハッピーエンディングにはいかないかもしれないが、オリンピックの大舞台で全ての選手の健闘を祈りたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのガザ支援措置、国連事務総長「効果ないか

ワールド

記録的豪雨のUAEドバイ、道路冠水で大渋滞 フライ

ワールド

インド下院総選挙の投票開始 モディ首相が3期目入り

ビジネス

ソニーとアポロ、米パラマウント共同買収へ協議=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中