最新記事

アメリカ経済

米共和党減税案、上位1%は中間層

2017年11月13日(月)15時40分
ニコール・グッドカインド

「貧乏人」は存在しないも同然 artisticco-iStock.

<世帯年収45万ドル以上を「中間層」とした下院共和党の異常な経済感覚に批判が噴出>

中間層減税を喧伝してきた米共和党がその減税案を明らかにした。米下院共和党によれば、中間層とは、年収45万ドル(約5000万円)以上稼ぐ人だという。全体のトップ1%に入る所得水準だが、共和党によれば、やっとのことで中所得層に留まっている人々だというのだ。

共和党は11月9日、税制改革法案に関するファクトシートを公表。その中で、納税者の上位0.5%の富裕層である年収45万ドルの世帯を「低中所得層」に分類した。

ちなみに、2016年のアメリカの家計所得の中間値は、5万9039ドル(約670万円)だ。

法人税と所得税の大型減税を柱にした共和党の税制改革法案は、年収45万ドルの「中間層」にかかる個人所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げるとする。だが、話題をさらったのは中身よりも、上位1%を中間層とみなす共和党の異常な経済感覚だ。

共和党の所得区分に「冗談だろう?」と苦笑するのは、全米最大の労働組合、米労働総同盟産別会議(AFL・CIO)の政策ディレクター、ダモン・シルバーズだ。「上位1%の所得水準が低中所得層というなら、年収45万ドル超を稼がない人間は存在しないと言うも同然だ」

アメリカの中間層の公式の定義はない。だが米シンクタンク税政策センターは、「家計所得の中間値」を年間4万8300~8万5600ドルとする。

低所得層への恩恵は後からついてくる

世論調査によれば、共和党の減税案を金持ち優遇とみなすアメリカ人は60%。共和党案は中間層への恩恵を強調しつつ、裏で金持ちを優遇する「トロイの木馬」だとして、民主党も猛反発している。

「これは中間層に対する詐欺だ」と、民主党のロン・ワイデン上院議員(オレゴン州選出)は言う。

「得するのは金持ちや力のある人で、中間層は締め出される」と、民主党のチャック・シューマー上院院内総務も批判した。

共和党内にも不満はある。最近の世論調査によれば、共和党員の63%が、法人税の減税より連邦予算の赤字削減の方が重要だと考えている。さらにそれを上回る75%が、富裕層への減税より赤字削減の方が重要と回答した。

共和党のベテラン戦略家ジョン・ウェーバーに言わせれば共和党案は「全米の共和党主流派が掲げる夢や希望を反映していない」と言う。

懸念や批判を意に介さない共和党上院議員もいる。共和党のリチャード・シェルビー上院議員(アラバマ州選出)は、金持ち減税が景気を刺激し、いずれは低所得層にも恩恵が及ぶという「トリクルダウン効果」を擁護する。「金持ちは資産を蓄え、仕事を生み、ハイリスクハイリターンの収益機会も生む」「過去の自分も含め、貧しい人間は何も生み出さない。日々の生活で精一杯なのだから」

共和党が最終的にこの考え方を支持するのか見物だ。

(翻訳:河原里香)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日銀総裁会見のポイント:利上げへの距離感探る、経済

ワールド

成長率予想を小幅上方修正、物価見通し維持 ガソリン

ワールド

タイレノールと自閉症の関連示す決定的証拠なし=ケネ

ワールド

米イーベイ、第4四半期利益見通しが市場予想下回る 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中