最新記事

香港

若者たちの「30年戦略」と行政長官選挙にみる香港の苦境

2017年3月29日(水)18時58分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

この時、運動を広める推進者として活躍したのが「長毛」こと梁国雄・立法会議員だ。議会や街頭デモではトレードマークの長髪をなびかせ大暴れする、急進民主派の有名人である。ところが映画で舞台裏を話すシーンでは冷静そのもの。どうやって人々の注目を喚起できるか、話題をつくり続けなければいけないと客観的に語っていた。いつもの大暴れも、そしてオキュパイ・セントラルの呼びかけも、計算されたパフォーマンスというわけだ。

今回の行政長官選挙でも梁議員はあるパフォーマンスを行っていた。それが模擬投票だ。たった1200人の選挙委員で決める選挙などまやかしだと批判。ネットと街頭で一般市民の投票を受け付け、3万7000人以上の支持を集めた場合には自分が立候補すると表明した。

選挙制度そのものを批判する、興味深いパフォーマンスと言えるのではないか。雨傘運動の流れをくむ政党「香港衆志」(デモシスト)も呼びかけ、街頭活動に加わったが、香港市民の反応は鈍く、目標を大きく下回る2万人の支持しか得られずに無念の活動終了となった。

雨傘運動のような形で圧倒的民意が示されれば、政府とて無視し得ない。しかし民意を喚起するためのパフォーマンスやイベントが乱発されれば、政治疲れ、パフォーマンス疲れが広がり、人々の注目を集めることはできない。

香港市民の"疲労度"を如実に示すのが「七一游行」の参加人数だろう。毎年7月1日の香港返還記念日に開催される「七一游行」は香港最大の抗議活動として知られているが、2014年の参加者は主催者発表51万人、警察発表9万8600人だったのに対し、2016年には主催者発表11万人、警察発表1万9300人にまで激減している。

【参考記事】「民主主義ってこれだ!」を香港で叫ぶ――「七一游行」体験記
【参考記事】「政治冷感」の香港で注目を集める新議員、朱凱廸とは?

一国二制度堅持の50年が終わる2047年までを見据えた長期戦略

不公正な選挙制度に乗っかっても現状は変えられない。圧倒的民意を集めようにも人々は政治疲れの只中にある。ある意味絶望的な状況にも思えるが、香港の非親中派の活動家は心が折れずにいられるのだろうか。

香港の政治的状況を見ていて感じる率直な感想だ。今をさかのぼること3カ月前、2016年12月末にこの質問を新興政党「香港衆志」の中心メンバーである周庭(アグネス・チョウ、20歳)副秘書長にぶつけてみた。

すると、「香港人の政治疲れというご理解は間違っていると思います。我々の活動には多くの支持が得られています」と、質問の前提そのものを否定する回答が返ってきた。

takaguchi170329-sub1.jpg

2016年7月1日、七一游行での「香港衆志」ブースにて演説する周庭副秘書長(筆者撮影)

周氏は2012年に中高生による政治団体「学民思潮」に加入。当時はまだ15歳だったが、後にはスポークスマンを務めるなど、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏とともに中心メンバーとして活躍してきた。2016年の「香港衆志」立ち上げ後も副秘書長として活躍。日本語が堪能なこともあって、日本メディアでの露出も多い。スポークスマンとしての反射神経は鋭く、質問者にぴしゃりと反論することもしばしばだ。

MAGAZINE

特集:5Gの世界

2019-3・26号(3/19発売)

超高速大容量の通信でネット利用が快適に...... どころで済まない5Gの潜在力と激変する未来の姿

人気ランキング

  • 1

    いじめで「死ななかった子」と親を取材して分かったこと

  • 2

    完璧としか言いようがない、イチロー選手の引退劇

  • 3

    モデルの乳がんを、レンブラントは意図せず描いた【名画の謎を解く】

  • 4

    アフリカの違法エナジードリンク、「6時間たちっぱ…

  • 5

    「虐待が脳を変えてしまう」脳科学者からの目を背け…

  • 6

    500年間誰も気づかなかったダビデ像の「目の秘密」【…

  • 7

    JKビジネスを天国と呼ぶ「売春」女子高生たちの生の声

  • 8

    すべてのパソコンをタブレットに変えたら、どれぐら…

  • 9

    ポモドーロ・テクニック:世界が実践する時間管理術…

  • 10

    巨額負債から回復するも高くついたゴーン流経営 日…

  • 1

    日本の重要性を見失った韓国

  • 2

    モデルの乳がんを、レンブラントは意図せず描いた【名画の謎を解く】

  • 3

    韓国のPM2.5が危機的状況で、比較的空気の綺麗な日本に注目が集まる

  • 4

    500年間誰も気づかなかったダビデ像の「目の秘密」【…

  • 5

    「深圳すごい、日本負けた」の嘘──中国の日本人経営…

  • 6

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 7

    北斎は幽霊っぽさを出すために子供の頭蓋骨を使った…

  • 8

    日本よ!「反韓・嫌韓」は時間の無駄だ

  • 9

    金正男暗殺実行犯の女性被告1人を釈放・帰国 マレー…

  • 10

    「韓国にまともな民主主義はない」アメリカも抱く誤…

  • 1

    日本の重要性を見失った韓国

  • 2

    家畜のブタが人食いブタに豹変──ロシア

  • 3

    フィンランドで隠し撮りされた「怪物」の悲劇

  • 4

    映画『ボヘミアン・ラプソディ』が語らなかったフレ…

  • 5

    自殺者数、米軍兵力、初任給... 韓国のリアルを10の…

  • 6

    【動画】サメを虐待した金持ち息子に軽すぎる刑

  • 7

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 8

    『ボヘミアン・ラプソディ』を陰で支えた、クイーン…

  • 9

    モデルの乳がんを、レンブラントは意図せず描いた【…

  • 10

    韓国のPM2.5が危機的状況で、比較的空気の綺麗な日本…

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
NWデジタル編集部ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年3月
  • 2019年2月
  • 2019年1月
  • 2018年12月
  • 2018年11月
  • 2018年10月