最新記事

北朝鮮

マイナス40度にもなる酷寒のなか、元帥様だけが暖かい

水道管が凍結、住民に凍死者も出る厳冬の時期には、中国に越境して略奪行為を働く朝鮮人民軍兵士もいる

2016年1月29日(金)15時58分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

酷寒期の視察 朝鮮人民軍兵士は毎年12月から翌年3月末まで、まともな食事もできないまま厳しい冬季訓練を行うが、今冬は特に東アジア各地で記録的な寒さが続いている(朝鮮中央通信〔KCNA〕が公表した写真、中央が金正恩〔キム・ジョンウン〕) KCNA-REUTERS

 先週から今週にかけて大寒波が日本列島を覆った。東アジア各地でも記録的な寒さが続く中、北朝鮮も例年を上回る寒さのため住民たちは厳しい生活を余儀なくされている。

 金正恩体制の聖地「白頭山」付近の三池淵(サムジヨン)地域では、24日にマイナス40度を記録。現地で行われている「白頭山青年英雄発電所」の建設工事現場では、作業員らが次々に凍傷にかかっている。

 また、各地で水道管や井戸が凍り、比較的暖かい東側の地域でも、水道管の凍結、破裂が続出。住民たちの間で「水確保戦闘」が繰り広げられている。しかし、こうした被害に対して北朝鮮当局は何ら対策を取っている形跡がない。

『凍土の共和国』という北朝鮮の実態を描いた書籍があるが、冬の北朝鮮は文字通りの「凍土」だ。住民からは、「冬になると飢えよりも寒さの方がよっぽどツラい。凍死する住民も多い」という証言も多く聞かれる。それでも北朝鮮当局は、特別な対策を取らない。

 厳冬期は、朝鮮人民軍の兵士にとっても最も辛い時期だ。毎年12月から翌年3月末まで、まともに食事をすることもできないまま厳しい冬季訓練を行う。空腹に耐えかねた兵士が北朝鮮国内だけでなく、中国側に越境して略奪を働くケースも多い。

(参考記事:独占入手!中国軍に制圧・連行される「北朝鮮脱走兵」の現場写真

 ただし、一人だけ北朝鮮の厳しい寒さから逃れている人物がいる。金正恩第一書記だ。普段から恵まれた環境で過ごしている正恩氏。ある時、酷寒のなかでの現地指導で、彼だけが手袋をはめ、ポケットに手を入れていた。

(参考記事:酷寒のなか、一人だけ手袋をはめてタバコを吸いながら現地指導する金正恩氏

 こうした立ち振る舞いでアピールするよりも、金正恩氏自身が率先して「寒さ対策」をリードすれば、国内外の評価も少しは上向きになると思うのだが。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東南アジア諸国、米高関税適用受け貿易交渉強化へ

ビジネス

カンタス航空、600万人情報流出でハッカーから接触

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中