最新記事

中東

パレスチナ絶望の20年

2015年11月4日(水)17時30分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)、 ジャック・ムーア

 こうしたなかアメリカは再び間に入って、事態の沈静化を試みている。外交筋によれば、今も聖地の管理に一定の権限を持つヨルダンのアブドラ国王に現状維持を確約してもらう案や、イスラエル政府による同様な宣言が模索されているようだ。

 だが大方のみるところ、暴力の連鎖の裏にあるのはパレスチナの人々の絶望、イスラエルによる占領に終わりが見えず和平の動きも止まっている現状に対する深い絶望だ。

 パレスチナの政治家で活動家のムスタファ・バルグティによれば、ラビン暗殺以降の20年間はイスラエルの後継首相たちがオスロ合意の履行を怠り、ヨルダン川西岸の入植地を拡大させ、不公平な法律でユダヤ人入植者を優遇し、パレスチナ人を差別してきた時期にほかならない。

 若者たちの暴走はアッバスに対する反乱でもあるとバルグティは言う。「独立と自由をもたらすことができない指導部への挑戦だ」と、バルグティはBBCに語った。「交渉で平和をもたらすという約束を20年も聞かされた揚げ句、いま彼らの目の前にあるのは何か。さらなる抑圧と徹底した民族隔離のシステムだけではないか」

 このような悲観論は、93年9月13日のオスロ合意署名後に、ホワイトハウスの芝生でラビンとパレスチナ解放機構(PLO)のヤセル・アラファト議長が握手する姿にイスラエル人とパレスチナ人が抱いた希望の対極に位置する。

 あの歴史的な合意は、長年の憎しみと対立を終わらせるはずだった。そこには相互の外交的承認や、ガザ地区と西岸の一部からのイスラエル軍撤退のスケジュールが含まれ、イスラエルとアラブ世界の共存の道を開くものだった。

 握手に立ち会ったクリントンは、両首脳の「未来は過去よりも良くなるという勇敢な賭け」を称賛した。だが2人の賭けがどれほど危険なものだったかはすぐに明らかになった。双方の過激派はオスロ合意に徹底抗戦。ハマスはテロによりバスやカフェで多くのイスラエル人の命を奪い、イスラエルとの共存はあり得ないと強硬に主張した。

 イスラエルでも、右派の入植者や宗教的保守派はパレスチナへの占領地返還を含む一切の合意に抵抗していた。デモはどんどん過激化し、ラビンをテロリストやナチス、裏切り者呼ばわりした。イスラエルを救うためにラビンを殺すのは宗教的義務だ、と信ずる者もいた。その1人がイガル・アミルだ。

2国家共存の原則も拒否

 当時、オスロ合意反対デモの先頭に立っていたのが、右派政党リクードの党首となったばかりのベンヤミン・ネタニヤフだ。現在4期目のネタニヤフ政権の下、イスラエルは一段と右傾化を強めている。治安悪化に対する恐れもあるし、パレスチナ側が政治的に分裂していて和平協定を結ぶ当事者能力を欠いているとの判断もあるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米地裁、FRB議長の召喚状差し止めの判断維持 検察

ワールド

イラン上空で米戦闘機撃墜、乗員1人を救助 対イラン

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

米政権、「脱獄不能」アルカトラズ監獄再開へ予算 ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 10
    『ナイト・エージェント』主演ガブリエル・バッソが…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中