最新記事

南シナ海

台湾とフィリピンの領有権争いに中国の影

フィリピン沿岸警備隊による台湾漁船銃撃を受けて、馬英九政権が強硬姿勢に出る理由は

2013年5月16日(木)15時51分
タリア・ラルフ

漁民の怒り 台北にあるマニラ経済文化事務所前の抗議デモ Pichi Chuang-Reuters

 台湾とフィリピン間の緊張が高まっている。フィリピン沿岸警備隊の銃撃により台湾漁船の船員が死亡した先週の事件を受け、台湾政府は15日、駐フィリピン代表の召還や経済交流の停止、フィリピンへの渡航自粛勧告などの制裁措置を発表した。

 銃撃事件が起きたのは、台湾とフィリピンの排他的経済水域(EEZ)が重なるバシー海峡付近。フィリピンの沿岸警備隊は、自国のEEZで違法操業していた漁船を取り締まろうとして警告射撃を行った際に、船員に当たったと主張した。銃弾を受けた65歳の船員は死亡した。

 台湾の馬英九(マー・インチウ)総統は、事件後のフィリピン政府の対応に「強い不満」を表明。フィリピン人の台湾での新規の就労申請を受け付けないなどの方針を固めた。台湾で働くフィリピン人労働者は約8万8000人で、毎月の就労申請は3000件に上る。

謝罪を受け入れず

 こうした台湾の措置を受け、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領の報道官は、「わが国の人民を巻き込むのはやめてほしい。われわれは冷静で節度ある対応を望む」と語っている。

 アキノ政権は、事実上の在台湾フィリピン大使館である「マニラ経済文化事務所」のアントニオ・バシリオ代表を送って謝罪を表明。さらに同事務所のアマデオ・ペレス会長をフィリピンから派遣し、亡くなった船員の家族と台湾の人々に「深い哀悼と謝罪」を伝えようとした。

 しかし台湾の林永楽(リン・ヨンロー)外交部長は、ペレスとの面会を拒否。ペレスがアキノ大統領から正式に委任されていなかったからだと、外交部報道官は面会拒絶の理由を説明した。

 台湾はフィリピンに対し、「正式な謝罪」、死亡した船員家族への賠償、銃撃した人物の拘束、2国間の漁業協議を求めている。台湾が強硬姿勢をとる背景には、フィリピンが「一つの中国」の原則のもと、中国と漁業協議を行おうとしたからだとの見方もある。

 フィリピン国家捜査局は、「中立的な立場で、迅速かつ徹底的な」捜査を行うと強調している。

 バシー海峡のある南シナ海は、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ブルネイが領有権を争う海域で、衝突が頻発している。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

11月ショッピングセンター売上高は前年比6.2%増

ビジネス

中国の海外ブランド携帯電話出荷台数、11月は128

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中