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第2のアルカイダ、脅威の頭脳と破壊力

08年のムンバイ同時テロの実行犯で、アルカイダをしのぐ技術力とネットワークを誇るラシュカレ・トイバが本格的に欧米を狙い始めた

2010年5月10日(月)10時00分
ジェレミー・カーン

戦闘員 インド軍がカシミールで拘束したラシュカレ・トイバの容疑者(07年5月)

 アメリカ軍は今もアフガニスタンとパキスタンの国境地帯でアルカイダの有名な幹部たちを懸命に追っているが、地球上で潜在的に最も危険なイスラム過激派は別の組織なのかもしれない。

 その名は「ラシュカレ・トイバ」。パキスタンに拠点を置き、これまではインド人やインド関連施設を標的にしてきた。とりわけ、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方が活動の主な舞台だった(パキスタンがイスラム教国なのに対し、インドはヒンドゥー教徒が人口の大半を占める)。

 しかし欧米とインドの情報機関によれば、ラシュカレ・トイバは欧米に標的を拡大し、インド国外でも大規模なテロを実行する能力を獲得し始めている。この2月に米上院情報特別委員会の公聴会でデニス・ブレア国家情報長官はこう述べた──ラシュカレ・トイバは「これまで以上に直接的な脅威」になりつつある。

 ラシュカレ・トイバは近年、アフガニスタンに始まり、イラク、バングラデシュ、さらにはデンマークに至るまで、さまざまな国で反欧米テロ(とテロの計画)に足跡を残し始めている。

 欧米を標的にし始めたことを強く印象付けたのは、ラシュカレ・トイバがこれまでに起こした中で最も派手な行動である08年11月のムンバイ同時多発テロ(インド)だ。このテロでは、欧米人旅行者に人気の高級ホテルやユダヤ教施設が標的になった。「これらはグローバルなジハード(聖戦)を展開する場合に狙う標的」だと、元CIA(米中央情報局)のテロ専門家ブルース・リーデルは言う。

 この同時テロの直後、パキスタン当局は、ラシュカレ・トイバの通信技術者だったとの疑いでザラル・シャーという男を逮捕した。シャーのノートパソコンを調べると、320カ所の標的候補のリストが見つかったといわれている。欧米のある情報機関関係者によれば、そのほとんどはインド国外。ヨーロッパの施設も含まれていたという。

攻撃目標はアメリカ大使館か

 ラシュカレ・トイバがテロ活動を世界に広げているもう1つの証拠として米当局が指摘するのは、デービッド・コールマン・ヘッドリーというシカゴ在住のパキスタン系アメリカ人の行動だ。ヘッドリーは09年10月、ムンバイ同時テロ実行のためにラシュカレ・トイバの見張り役を務めた容疑で逮捕された(本人は容疑を否定)。

 捜査当局によれば、ヘッドリーとラシュカレ・トイバはほかにもテロ計画を練っていた。05年にイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を載せたデンマークの新聞社を襲おうとしていたという。

 それだけではない。ヘッドリーの逮捕後にFBI(米連邦捜査局)が得た情報を基に、バングラデシュ当局はラシュカレ・トイバの工作員を一斉検挙した。容疑は、首都ダッカのアメリカとイギリスの大使館を攻撃する準備を進めていたことだった。

「ラシュカレ・トイバは、南アジアに極めて大きな害悪を及ぼしている。これほど深刻な不安材料はほかにほとんどない」と、米国務省のテロ対策責任者ダニエル・ベンジャミンは、この1月に報道陣に語っている。

 米大使館テロ計画が浮き彫りにしたのは、「いまアメリカがラシュカレ・トイバと戦争を戦っている」という現実だと、元CIAのリーデルは言う。

 2月には、インドの西部の都市プーナで起きた爆破テロに対して、ラシュカレ・トイバの一派と名乗るグループが犯行声明を出した。このテロで標的になったのは、外国人の旅行者や現地在住者に人気のあるカフェだった。

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