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繊細なテーマだが家族で楽しめる『私ときどきレッサーパンダ』の明るさと楽しさ

Growing Up Female

2022年03月24日(木)17時22分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『私ときどきレッサーパンダ』

時々レッサーパンダに姿を変えてしまうメイのことを大親友の3人はすぐに受け入れる DISNEY-PIXARーSLATE

<モフモフの姿に変身してしまう女の子の戸惑いと成長を描いたピクサー映画『私ときどきレッサーパンダ』は難しいテーマを明るく描いた秀作>

13歳の少女が突然、体に異変を感じる。恥ずかしさに震えながら、彼女はトイレに駆け込む。母が大丈夫かとドアをノックする。

娘は「来ないで! 私はモンスターなの!」とすすり泣く。母は尋ねる。「もしかして......あなたボタンの花が咲いたの?」

「ボタンの花が咲く」は、初潮が来たという意味。しかしこの場面は、少女の成長を描くヤングアダルト小説のアニメ化作品のものではない。厳格な両親の期待と自我の板挟みに悩む中国系カナダ人の少女を描いたピクサー映画『私ときどきレッサーパンダ』の冒頭の一シーンだ。

主人公のメイを悩ませたのは「ボタンの花」ではなく、初めてレッサーパンダに変身してしまったこと。彼女は母方の家系から、感情が高ぶると巨大なレッサーパンダに変身するという不思議な能力を受け継いでいた。

メイは落ち込むが、3人の親友はすぐに彼女の新しい姿を受け入れる。そして4人は、大ファンのボーイズバンド「4★TOWN」のコンサートに行くために、メイの変身能力を利用してチケット代を稼ごうと計画する。

本作の監督はメイと同じ中国系カナダ人で、2018年の作品『バオ』でアカデミー賞短編アニメーション賞を獲得したドミー・シー。ピクサー作品で女性が単独で監督を務めるのは、これが初めてだ。

女の子の思春期と生理を率直に描く

女性が中心の物語という点も本作の特徴。主な登場人物のうち男性は、4★TOWNを除けばメイの父だけだ。

この作品の最も過激と言える特徴は、女の子の思春期と生理を率直に描写している点だろう。

制御不能で厄介なメイの変身は、映画『キャリー』の戦慄のクライマックスで、主人公キャリーが豚の血にまみれるシーン以来、最も明確に初潮を表現している。さらにメイが秘密のノートに憧れの人と抱き合っている絵を描くシーンは、ピクサー映画の中で最も露骨にセックスに言及した場面かもしれない。

本作では時に残酷な母娘の間の力関係や、体の成長にまつわる気まずい思い、あるいはポップ音楽やセレブへの関心が性的な興味の健全なはけ口になり得ることなども描かれる。

こんな微妙なテーマを扱いながらも、家族みんなで見られる映画はそれほど多くない。初めて起用する監督に、こうした繊細なテーマを自由に、しかも陽気で遊び心に満ちた雰囲気で表現させたことは、ピクサーの明るい未来を予感させる。

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