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ドキュメンタリー

地球の「最後の氷」を解かさないための闘い

A Wake-Up Call for Humanity

2020年11月10日(火)17時25分
キャスリーン・レリハン

海氷融解は野生生物やイヌイットの生活を脅かしている ©NATIONAL GEOGRAPHIC SOCIETY

<北極圏の危機を追った『ラストアイス』が告げるパンデミックという警鐘と人類生き残りの道>

残された時間は少ない。地球の冷却システムである北極海の夏季海氷は、科学的予測によると、早ければ2040年までに完全に消滅する。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と経済への破滅的影響に各国が気を取られるなか、地球温暖化はより緊急度の低い問題だという声もある。だが、今回のパンデミックは人類と地球の関係崩壊に対する最大の警鐘だと考える科学者にとっては、そうではない。

ナショナル・ジオグラフィックの新たなドキュメンタリー作品『ラストアイス』では、温暖化がもたらすさらなる危機が明かされる(日本では、ナショナル・ジオグラフィックTVにて2021年放送予定)。北極海の海氷と共にある先住民族イヌイットの生活様式の消滅だ。北極圏を守り、伝統文化を保持しようとするイヌイットの闘いを、同作は追い掛ける。

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©NATIONAL GEOGRAPHIC SOCIETY

カナダとグリーンランドで4年にわたって撮影された『ラストアイス』は、イヌイット社会のリーダーや活動家、伝統的な手法を用いる猟師らを取材。北極圏に暮らすイヌイット約10万人に海氷融解が与える影響を検証している。

海氷面積の減少で航行しやすくなった北極海は今、石油や天然ガスの探鉱、より効率的な航海ルートの開発、漁業や観光業の強化など、経済目的の利用が進んでいる。

しかしイヌイットにとって「神聖な海」の開発は暮らしの場や伝統文化の行方を脅かす。土地や野生生物が姿を消せば、漁獲や狩猟によって成り立つ彼らの生活様式も消える。先住民族の文化や権利を守る倫理的責務が国際社会の関心を呼び覚ます理由にならないなら、一体何が理由になるのか。

今回のパンデミックこそがそれに当たるはずだ。『ラストアイス』の製作総指揮を担当したナショナル・ジオグラフィック専属探検家で、海洋保全活動家のエンリック・サラはそう話す。地球の「白い心臓部」を守ることは人類にとって最高の健康保険でもあり、経済的に賢明だと、サラは本誌に語った。

気象パターンの根本的変化や野生生物の絶滅、先住民族文化の消滅から、世界経済や人類全体の健康まで、北極海の海氷融解の影響はあらゆる面に浸透する。自然環境の保護は先送りできない問題だと訴える『ラストアイス』によって、危機意識を生み出したいとサラは願っている。

カギは植物中心の食事

「新たなパンデミックを防ぎたいなら、今こそ地球環境の保護に投資すべきときだ」と、ナショナル・ジオグラフィックの海洋保護イニシアティブ、プリスティン・シーズ(原始の海)の創設者でもあるサラは言う。

「自然界の健康状態、人類と自然の関係が私たち自身の健康、究極的には人類の生き残りを決める。(新型コロナの)パンデミックはその理由を説明する最も強力な例だ」

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