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死産の経験をシェアした芸能人を叩く人たちが知らない事実

Helping Grieving Parents

2020年11月04日(水)17時00分
ラチェル・ハンプトン

マコーミックは妊娠喪失を経験した親のために、プロによる写真撮影を無料で提供するNGO「ナウ・アイ・レイ・ミー・ダウン・トゥ・スリープ(NILMDTS)」でボランティアをしている(マコーミックはその写真を「追悼写真」と呼んでいる)。

きっかけは友達の死産経験だ。看護師が写真を撮ってくれたが、あまりにも下手で、照明も悪く、ほとんど何も見えなかったという。「彼女はいつも、『別の人に頼めばよかった』と言っていた」と、マコーミックは振り返る。

NILMDTSは世界40カ国で活動しており、約1500人のボランティア写真家が参加している。マコーミックはその1人として、年間6〜7回の撮影に協力しているという。その一方で、最近アトランティック誌で紹介されたトッド・ホックバーグのように、独自に追悼撮影を引き受ける写真家もいる。

古くはビクトリア朝時代のイギリスで、死者の肖像画を描くことがはやった時期もあった。だが今、それが写真の形でソーシャルメディアでシェアされたり、ニュースで報じられたりすると、「気持ち悪い」とか「不気味」と言われることが多い。

NILMDTSのプログラムマネジャーを務めるアリ・ファートワングラーによると、追悼写真は「死の撮影」ではない。初めて妊娠した子を20週で失った彼女は、撮影する側と撮影される側の両方の立場を経験してきた。

おなかの息子が成長していないと分かったとき、ファートワングラーと夫は「見舞いに来ないでくれ」と家族に頼んだという。「あれほど深い悲しみの中で、現実を受け入れることに苦しんでいるとき、慰められても意味がない」

そんなとき写真があると、「彼が小さな人間として本当に存在したこと」を家族と、その後生まれる3人の子供に「見せることができるから、とても重要だった」。

NILMDTSでボランティアを始めたファートワングラーだが、やがて「傍観していることに辟易して」自ら写真を学ぶことにした。2018年に正式な協力写真家になって以来、約30家族の写真を撮ってきたという。

「無理に隠す必要はない」

依頼の方法はいろいろだ。NILMDTSのデータべースを調べて、写真家に直接連絡してくる家族もいれば、看護師や病院のソーシャルワーカーからNILMDTSを紹介された家族もいる。

撮影そのものは、なるべく迅速かつ静かに行われる以外は、通常の肖像写真の撮影とさほど変わらない。一番の違いは、照明器具をあまり使えないことと、白黒かセピア色の仕上がりにすることだ。

写真家は、被写体にとって人生で最もつらい日の1つを目撃することになるが、ファートワングラーとマコーミックは家族の苦悩と自分の感情を切り離すことを学んだという。「私の喪失ではないと自分に言い聞かせる」と、ファートワングラーは語る。

自分の撮った写真がどう使われるか、写真家たちは知らない。写真のリンクを両親に送るだけで、いつ(あるいは果たして)それが見られるか、ダウンロードされるかは親の選択に委ねられている。

マコーミックは、自分の喪失の経験を写真で記録してシェアしたテイゲンの選択をたたえる。「人は流産のことを話したがらないものだが、これを機に、こうしたことは話題にしないものだという社会通念がなくなるよう願っている」と彼女は語る。「悲しいし、話すのもつらい。でも、世間から隠さなければいけないことではない」

©2020 The Slate Group


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