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生きることの意味を問いたい人へ。人生の教訓がないメロドラマ、でも...

No Life Lessons Here

2019年11月25日(月)18時00分
インクー・カン(カルチャーライター)

子供の誕生を心待ちにする幸せな夫婦だったウィル(右)とアビーだが… ©2018 FULL CIRCLE PRODUCTIONS, LLC, NOSTROMO PICTURES, S.L. AND LIFE ITSELF AIE. ALL RIGHTS RESERVED.

<壮大な構想も凝った演出もまるで空回り! 名優無駄遣いの凡庸な愛の物語『ライフ・イットセルフ』>

クジャクのようにもったいぶって歩き回り、自慢げに羽を広げて見せる。大掛かりな構想とポップな人生哲学を称賛しろと強要するが、自分のかさぶたに気が付いていない。名だたる俳優をそろえたメロドラマ『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』は、まさに飛べない鳥だ。

監督で脚本を執筆したダン・フォーゲルマンは、大ヒットとなったテレビドラマ『THIS IS US/ディス・イズ・アス』の脚本も手掛けた。どちらも数世代にまたがる群像劇で、プロポーズや妊娠など「普遍的」な人生のドラマに、アートシアター流の演出(自然主義的な演技、暖かい光、細かいカットの編集)を凝らす。

ただし、『ライフ・イット セルフ』の登場人物は人として成長する機会がないまま、物語は堂々巡りを繰り返す。要約すれば善良で魅力的な人々に、特に女性たちに悲しい出来事が次々に降り掛かる人生ドラマだ。

主人公の売れない脚本家ウィル(オスカー・アイザック)は、一見すると良い人ではなさそうだ。カフェを追い出されるとセラピスト(アネット・ベニングの無駄遣い) のオフィスへ向かい、アルコールを足したコーヒーをすすりながら、裁判で義務付けら れたカウンセリングを受ける。

ナレーションと回想シーンから、妻アビー(オリビア・ワイルド)がウィルを置いて出て行ったことが分かる。彼の言葉を信じてはいけないと感じさせるせりふはあるが、妻が大好きなボブ・ディランのことを「ペニスをくわえて」歌っているみたいと揶揄しても、あくまで魅力的な男に見せたいらしい。

時の経過が感じられず

2人目の語り手(この演出は本当に必要なのか?)によると、美しくて子供好きなアビーは贅沢もせず、理想の妻らしい。このあたりから、愛と「完璧な女性」に対するフォーゲルマンの退屈で芸術的な解釈が、物語を致命的なほど凡庸にしていく。

前半はあきれた展開だが、少なくとも記憶に残る。しかし、ウィルとアビーの成長した娘ディラン(オリビア・クック)が登場した後は、ほとんど記憶にさえ残らない。

全体を通じて数十年の月日が流れるが、時の経過をほとんど感じない。突然の悲劇が次々に起きても、トラウマをそれらしく描く場面もない。

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