最新記事

ヒラリー・クリントン

稀代のパワーカップル『ヒラリーとクリントン』、政治家の結婚を描いた笑えない喜劇

Hillary Clinton, Tragic Heroine?

2019年06月17日(月)16時45分
ニーナ・バーリー

有名過ぎる夫婦の「物まね」ではない演出は賛否両論 JULIETA CERVANTES

<クリントンは何に怒り、何に負けたのか......米政界パワーカップルの悲哀のドラマ>

ブロードウェイで公演中の舞台『ヒラリーとクリントン』は、「いわゆるコメディー」とただし書きが付いている。しかし幕 が上がってみれば、欠点だらけの中年のヒロインがフリースの上着にスリッパを履いて、運命に怒りをぶつける純粋な悲劇だ。 「私の思う悲劇の主人公は、時に自分や他人の行動の結果として、時に不運な時代と場所に生まれた結果として、絡み合った 環境から逃れることができない人だ」と、脚本を手掛けたルーカス・ナスは言う。

「その縄を振りほどこうと、どんな道を選んでも、必ず新たな問題が待ち受けている。(古代ギリシャの悲劇作家)ソフォクレス風に言えば、ねじれた枝を真っすぐにしようとしても、何をしたところで、枝は余計にねじれるだけだ」

ヒラリーを演じるローリー・メトカーフは、本物のヒラリー・クリントンを演じているのではないと語る。「物まねは求められなかったから、その点は気楽だった。架空の人物だ。それでも彼女が08年に(民主党予備選挙で)経験したことを調べて、大統領選の渦中にいるというのはどういうことか、感じ取ろうとした。あんな経験をどうやって乗り越えるのか、私には考えられない。永遠に終わらない、地獄の日々だ」

【参考記事】「人をイラつかせる何か」を持つヒラリー 22年も嫌われ続けるその理由

コメディー的要素を担当するのは、ジョン・リスゴー演じる夫のビル。自身の経験に基づく政治的なアドバイスは、現実世界のヒラリーにとって最も難しいアドバイスでもある。有権者は頭ではなく心で投票するとビルに言われ、彼女はぴしゃりと言い返す。「ばかばかしい、人間は成長しなくちゃいけない」

ナスは、伝記を書こうと思ったことは一度もないが、今回の作品は政治家の結婚をリアルに伝えていると語る。

ヒラリーのキャリアが、あからさまな女性蔑視に彩られてきたことは確かだ。しかしナスとメトカーフは、自分の意志で行動する欠点だらけの主人公を描く。ヒラリーが負けたのは女性蔑視の被害者だからというより、自分の選択ミスのせいだと示唆しているのかもしれない。

ブロードウェイのヒラリーは週6日、自分の運命に怒りをぶつける。車で30分ほど北にある自宅で、本物のヒラリーも怒りをぶつけているのだろうか。

【参考記事】おじさん・おばさんにはピンとこない、若者だけに響くミュージカルの秘密


magSR190625issue-cover200.jpg
※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。

[2019年6月18日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「見せたら駄目」──なぜ女性の「バストトップ」を社…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    カーダシアンの顔になるため整形代60万ドル...後悔し…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

  • 3

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 4

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 1

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 4

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 5

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:高市早苗研究

特集:高市早苗研究

2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える