地域の伝統の保護と、旅館経営の両立を...星野リゾートが重視する「CSV経営」とは
全国22施設で、伝統工芸や文化を伝える3種類の取り組みを実施
その土地の伝統工芸・文化の継承を支援する「界」の取り組みとしては、「ご当地部屋」「ご当地楽」「手業のひととき」という3つが展開されている。
「ご当地部屋」は、その土地ならではの文化や芸術に触れることができる客室だ。例えば、山口県の「界 長門」のご当地部屋「長門五彩の間」では、山口市の無形文化財に指定されている「徳地和紙」をヘッドボードに取り入れたり、「萩焼」の茶器や花瓶を配している。
地域の文化が体験できるサービス「ご当地楽」は、宿泊すると毎日無料で楽しむことができる。栃木県にある「界 日光」のご当地楽「日光下駄談義」では、伝統工芸「日光下駄」の歴史や特徴を知ったり、実際に履いてみることができ、宿泊者が購入に至ることもあると言う。
2021年からスタートした「手業のひととき」は、職人や生産者といった文化の担い手から直接手ほどきを受けることができる体験プログラムだ。希少な技を間近でみたり、職人や生産者との交流を通じて、伝統工芸品や文化への関心の向上に繋がっている。
小泉氏は、「事業を通じて、全国22施設・年間45万人もの宿泊者に対して、地域の魅力を伝え、経済的な利益を地域に還元しているという点は、温泉旅館ブランドとしてのスケールを活かしているからこその結果だと捉えています」と話す。
グローバル化が進む中で、世界規模で文化的多様性が失われることが危惧されている。今後地域の文化・伝統を守るために、世界中の企業がCSVの考え方を持つことが必要とされるだろう。その中で、少子高齢化の進む日本において、「界」の取り組みは伝統工芸・文化の衰退に歯止めをかける、CSV経営の好事例となるのではないだろうか。