医療で大切なことはフットボールで全て学んだ
Life After Sports
カンザスシティー・チーフス時代のデュバネイターディフ(2017年) SCOTT WINTERSーICON SPORTSWIRE/GETTY IMAGES
<現役時代はコロナ最前線の医療現場で奮闘、引退後は医療や慈善事業に尽くす元NFL選手の思い>
▼目次
大切なのはチームワーク
学校の課外活動を支援
2020年2月2日、フロリダ州マイアミのスタジアムでスーパーボウルの優勝トロフィーを高々と掲げた時、カンザスシティー・チーフスの面々は誇らしい思いで胸がいっぱいだったに違いない。
オフェンシブ・ガードのローレン・デュバネイターディフも勝利を祝うチームの中にいた。スーパーボウルを制覇することは、NFL(全米プロフットボールリーグ)でプレーする選手にとって輝かしい栄誉だ。カナダ出身でフットボールを始めたのが比較的遅かったデュバネイターディフにとっては、ことのほか大きな偉業と言える。
しかしその後、新型コロナのパンデミックが状況を一変させた。フットボールをプレーしながら医師の資格を取得したデュバネイターディフは、自分がどのような行動を取るべきか分かっていた。
「最初はかなり不満だった。自己中心的な発想をしていた」と振り返る。「優勝して自分が脚光を浴びる年になるはずだったのに、突然、自分が主役でないことを思い知らされた」

地元カナダのケベック州では、病院や長期療養施設がコロナ禍で打撃を被っていた。政府は医療職の経験を持つ人たちに、現場に戻って力を貸してほしいと呼びかけた。
「スーパーボウルの勝利から1カ月半後、私はマスクとフェイスシールドと手袋をして、感染流行地域の施設で初めて勤務を開始した」
間もなくレジデント(研修医)が終わるデュバネイターディフが医学博士を取得したのは18年のこと。医療とフットボールの両立の難しさはコロナ禍以前から知っている。
NFL入りのプロセスから既にそうだった。ほとんどの有力な大学フットボール選手とは、プロ入りの道がいささか違ったのだ。NFLの各チームにプレーを収録したDVDを送り、カナダにスカウトを招いて独自の身体能力テストを実施したこともあり、興味を示すチームはあった。しかし、NFLのチームとの接触には困難を伴った。
ケベック州モントリオールの小児科病院での実習中に、代理人が電話してきて、どこそこのチームに面談に行け、今度は別のどこそこのチームに面談に行けといった具合に指示してきた。
「2週間で10チームくらいに足を運んだ。目が回るほど慌ただしい日々だった」と、当時の経験を語る。「ズボンのお尻のポケットにパスポートを入れて病院に出勤したり、白衣を着て、首に聴診器をかけたまま、トイレの便座に腰かけてビデオ通話でチームとの面談に臨んだりした」
ドラフト会議当日は、家族や友人と一緒にテレビの中継を見守るために病院を退勤しようとしていたとき、呼び出しがかかった。双子の緊急帝王切開手術を行うことになったというのだ。「(手術室に入る前に)看護師に携帯電話を預けて、もし電話があったら『イエス』と答えておいてほしいと伝えた」
結局、その晩に電話がかかってくることはなかったが、デュバネイターディフは、この14年NFLドラフト会議の6順目でカンザスシティー・チーフスから指名された。
ただし、プロ入りで彼の医学のキャリアが途絶えたわけではなかった。NFLのシーズン中はフットボールに専念し、シーズンオフには医学を極めることにしたのだ。
だがコロナ禍をきっかけに、このプランどおりにはいかなくなった。医療の最前線に身を投じることになったのである。その結果、アカデミズムの世界における医学と、人々の生死に関わるコロナ禍の医療現場の違いを短期間で学ぶことになった。
「最初は医学生のような考え方で現場に入っていった。血圧のコントロール、投薬、糖尿病の治療など、全てで完璧を目指そうとしていた」
ところが、ある看護師の指摘をきっかけに考え方が変わったとか。このような現場ではもっと優先すべきことがあると思うようになった。「この患者さんたちは、退院して自宅に帰るわけではないのですよ」と言われたのだ。
「そのような患者たちにとって本当に重要なのは、快適さと尊厳、そしてそのほかの一見すると些細なことの数々だ。隔離されている患者たちが対面する唯一の人間である私たち医療従事者は、この難しい時期にどのように患者たちと接するべきなのか。その点を考えることにより、私という人間は大きく変わった」
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