最新記事
BOOKS

「精緻で美しい奇跡」ノーベル賞作家ハン・ガン『別れを告げない』、米メディア書評

Han Kang’s Great Unerasing

2025年2月14日(金)17時30分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

チャンと同じように、キョンハとインソンも歴史に埋もれた人々を捨て身で忘却から救い出そうとする。

2人が風化を阻もうとしている悲劇の規模に比べると、インソンの頼みは一見ささやかだ。病院に駆け付けたキョンハにインソンは、済州島の家に残したペットのインコが喉の渇きで死なないように、助けに行ってくれと頼む。


だが折しも済州島は猛吹雪。キョンハが雪をかき分け山深いインソンの家に向かう間に、小鳥の命は失われる。

このあたりから、現実と非現実の境が曖昧になる。

キョンハは森で道に迷い、凍死したのかもしれない。あるいはインソンの家に何とかたどり着いたが小鳥は死んでおり、小鳥を埋葬した後、眠りに落ちたのかもしれない。

目覚めると死んだはずの小鳥は生きていて、インソンが台所でかゆを作っている。これは初めてのことではない。インソンは高校生の頃に家出をして事故に遭い、意識がないなか、母の前に生き霊のように現れたのだ。『別れを告げない』は夢と幻の物語で、安易な解釈を寄せ付けない。

キョンハの前に現れたインソンは、済州島四・三事件で犠牲となった家族の歴史を語る(1948年、南北分断に反対し蜂起した島民を軍や警察が虐殺。弾圧は6年続き、死者は3万ともいわれる)。

虐殺が起きたとき、インソンの母とその姉は10代だった。殺害を逃れた姉妹が両親を見つけようと、たくさんの遺体の顔から雪を払って歩く場面は忘れ難い印象を残す。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=総じて下落、イランとの協議巡る楽観論

ビジネス

FRB政策「良好な位置」、異例の局面に対応可能=N

ワールド

米、対キューバ政策に変更なし 制裁対象のロ船籍の燃

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒感が下支え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 5
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中