最新記事

映画

ゴールデングローブ賞は時代遅れの差別主義? 英語5割未満で作品賞から排除

2021年1月12日(火)20時40分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

自身の会社の作品『ミナリ』がゴールデングローブ賞で、まさかの作品賞締め出しを食らったブラッド・ピット。写真は昨年助演男優賞を受賞したときのもの。MIKE BLAKE - REUTERS

<各国の映画祭で絶賛された『ミナリ』がアカデミー賞の前哨戦で作品賞にノミネートされず>

昨年、韓国である映画『パラサイト』が米アカデミー賞で4冠を制し、大きな話題となった。世界中から今後の韓国映画に期待を寄せられているなか、ある映画の国籍をめぐって意見が分かれていることはご存じだろうか?

映画『ミナリ』は、1980年代アメリカ南部アーカンソー州の農場へ移民としてやってきたある韓国人家族の物語だ。アメリカンドリームをつかもうと土地を買い、様ざまな困難にいき当たろうとも希望を忘れず前を向き懸命に生きていく一家の姿を描いている。

主人公一家の大黒柱を務めるのは、『ウォーキング・デッド』で一躍スターとなり、その後イ・チャンドン監督の映画『バーニング 』では、第44回ロサンゼルス映画批評家協会賞にて助演男優賞も受賞したスティーヴン・ユァン。その他、彼の妻モニカ役に『人狼』『海にかかる霧』『最悪な一日Worst Woman(原題)』のハン・イェリ。モニカの母親スンジャ役は、韓国映画・ドラマ好きなら1度は目にしたことがあるであろうベテラン女優ユン・ヨジョンが演じている。

そして、監督はハリウッド実写版『君の名は。』の監督に抜擢され、自身も韓国系アメリカ人であるリー・アイザック・チョンがメガフォンを取った。

全米各地の映画賞ですでに8つの助演女優賞を受賞

映画『ミナリ』は、昨年の1月第36回サンダンス映画祭でプレミア上映され、審査員と観客賞をW受賞したことを皮切りに、すでに各国の映画祭にて上映され喝采を浴びている。今年のアカデミー賞に最も近い作品であると、すでに関係者の間では噂がもちきりだ。

作品賞はもちろんだが、主人公の義母を演じたユン・ヨジョンは、第46回LA批評家協会賞をはじめ、ボストン批評家協会賞、ノースカロライナ批評家協会賞、オクラホマ批評家協会賞、コロンバス批評家協会賞、Greater Westernニューヨーク批評家協会賞、アメリカ女性映画記者協会、サンセット・フィルム・サークル・アワードで「最優秀助演賞」を軒並み制し、こちらもアカデミー賞ノミネートが期待されている。

そして、昨年12月22日、ゴールデングローブ賞2021のノミネート作品が発表された。ゴールグローブといえば、米アカデミー賞の前哨戦として有名だ。もちろん、この映画『ミナリ』は、満場一致で作品賞候補作としてエントリーされると誰もが思っていた。しかし、作品賞の候補から落とされてしまった。なんとセリフの半分以上が韓国語だからという。

ゴールデングローブ賞の主催者側は、劇中の台詞の50%以上が英語以外の言語である場合「外国語映画賞」にカテゴリーされると主張している。おととし、中国系移民一家を描き、こちらも各国で絶賛を浴びた映画『フェアウェル』も、この基準によって作品賞ノミネートから外された。

『ミナリ』が外国語映画とされたニュースが報道されるや否や、アメリカでは「これは差別である」という批判の声が上がり始めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 9
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中