最新記事

クーデター

ミャンマーの衣料品業界、クーデターとコロナで崩壊寸前

2021年4月11日(日)09時30分

2年前にミャンマーで衣料品工場を始めた中国籍のリー・ドンリャンさんは今、工場を閉鎖するか、そして残っている従業員800人を解雇するかの瀬戸際に立たされている。2010年3月、ヤンゴンの衣料品工場で撮影(2021年 ロイター/Soe Zeya Tun)

2年前にミャンマーで衣料品工場を始めた中国籍のリー・ドンリャンさんは今、工場を閉鎖するか、そして残っている従業員800人を解雇するかの瀬戸際に立たされている。

新型コロナウイルスのパンデミックで経営が既に苦境に陥っていたところに、2月1日の国軍クーデターで事態はさらに悪化。大規模な抗議デモに加え、治安部隊の暴力行為で多数の死者が出る状況が続く。

そうした中で同国では反中国感情が高まり、混乱の中でリーさんの工場は焼き打ちされた。さらに海外からの受注が停止した。

リーさんが置かれた状況は、ミャンマー経済に極めて重要な衣料品製造業が直面する危機の大きさを物語る。国連のデータに基づくと、衣料品製造業はミャンマーの輸出全体の約3分の1を占め、低賃金で70万人を雇用している。

リーさんは「次の数カ月で新たな受注がなければ、ミャンマーでの事業をあきらめるしかなくなる」と語る。工場の稼働率は現在約20%まで落ち込み、クーデター前に入っていた注文をこなすだけで何とか操業をしている。既に従業員を400人減らしたという。

H&Mやプライマークといった世界的な大手アパレルブランドはクーデターに伴いミャンマーとの取引を中止。リーさんを含めミャンマーの多くの工場経営者は、中国やカンボジア、ベトナムといった生産コストが安い他の衣料品製造集積地に移転することを検討中だ。

ミャンマー衣料品製造業者協会(MGMA)のデータによると、国内にある600の衣料品工場の3分の1近くが、リーさんのような中国系資本。中国系は出資者としてずば抜けて大きなグループと言える。

中国投資家にミャンマー事業に関する助言を行っているMyanWei Consulting Groupのマネジングパートナー、Khin May Htway氏によると、既に中国系資本の少なくとも2つの工場が閉鎖を決めた。2工場が雇用していた人数は3000人に上るという。

天国と地獄

ミャンマーの衣料品製造業は、過去10年間で外国からの投資が急増。経済改革と当時の西側諸国の制裁解除、各種貿易協定を追い風にミャンマーは製造業の新たな一大拠点として台頭。特に衣料品はその象徴的存在となった。

国連コムトレードのデータによると、ミャンマーからの衣料品輸出は2011年時点で10億ドル弱、同国の輸出全体の約10%に過ぎなかったが、19年には65億ドル強、約30%にまで成長していた。

しかし、衣料品製造業はパンデミックで痛めつけられることになった。昨年に世界のあちこちが景気後退に陥り、消費が減退。その結果、ミャンマーやその他のアジア諸国の衣料品工場で働く何万人もが職を失った。

そこに追い打ちをかけるようにクーデターが発生。数週間のうちに多くの衣料品工場は、労働者がデモに加わるか、あるいは街頭がまさに戦場と化したために職場にたどり着けなくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナ存続は米にとって重要」、姿勢

ワールド

IMF、中東・北アフリカ成長予想を下方修正 紛争激

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、経済指標や企業決算見極め

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米指標やFRB高官発言受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中