最新記事

金融政策

「やめておけ、マイナス金利」 欧州金融界、逆効果示唆する調査

2020年9月20日(日)13時48分

欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策を採用して6年。同様の政策に突き進もうと考えている中央銀行に対し、行動ファイナンスの権威らが発しているメッセージはこうだ。「やめておけ。その価値はない。写真は東京都内で2010年8月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策を採用して6年。同様の政策に突き進もうと考えている中央銀行に対し、行動ファイナンスの権威らが発しているメッセージはこうだ。「やめておけ。その価値はない」

現在、政策金利がゼロ以上、0.25%以下なのは米国、英国、ノルウェー、オーストラリア、ニュージーランド、イスラエル、カナダ。従ってこれら諸国の中から、新型コロナウイルス蔓延による景気悪化に対処しようとマイナス金利政策を実施する中銀が1、2行出てくる可能性がある。

英国の短期金融市場は、イングランド銀行(中銀)が来年、政策金利をマイナスに引き下げることを織り込んでおり、ニュ-ジーランド準備銀行(中銀)はすでに銀行に対し、マイナス金利に備えるよう求めている。

しかし新たな研究により、前々から一部の中銀当局者が恐れていたことが裏付けられたようだ。つまりマイナス金利は効果がないばかりか、逆効果かもしれない。

イスラエルの国家債務管理部門を統括するリオル・ダビドプル氏は「もっと資金を借り入れてリスク性資産への投資を増やすよう、人々の背中を押したいのであれば、マイナス金利よりもゼロ金利の方がむしろ効率的だ」と話す。

ダビドプル氏は先月、行動・実験経済学ジャーナル誌で共著の論文を公表した。それによると、リスクを取る行動と資金を借り入れる行動を促す効果が最も強く表れたのは、金利が1%から0%に下がった時だった。

米国やオーストラリアの中銀が今年実施した利下げは、おおむねこの線に沿っている。

ダビドプル氏らの調査は、マイナス金利への消費者の反応を調べる貴重なものだ。経済学を学ぶ大学生205人を4グループに分け、各々1万シェケル(2921ドル、約30万6700円)を与えて、無リスクの銀行預金と株式などリスク性資産に振り分けさせる。

当初の金利設定はプラス2%からマイナス1%の範囲でグループごとに異なるが、いずれも1%ポイントの利下げを行う。利下げ後、参加者は投資のためにいくら借り入れたいかを聞かれる。

ダビドプル氏によると、金利がマイナス1%に下がったグループは、借り入れをむしろ1.75%縮小したのに対し、金利が0%に下がったグループは20%増やした。

同氏は「0%という数字自体が、人々に特別な意味を持った」と述べ、金利がマイナス圏に入った途端にレバレッジ(投資のための借り入れ)は下がると説明した。

ECBの元エコノミストで現在はソシエテ・ジェネラルで働くアナトリ・アネンコフ氏はこの理由について、マイナス金利が「一種の緊急事態」を想起させるからだと言う。

「人々はお金を使うのではなく貯蓄するかもしれないので、望むような効果が得られない可能性がある」

実際にユーロ圏の貯蓄率は、2014年にマイナス金利政策が実施された後に一瞬下がったが、その後はマイナス金利が深掘りされても上昇し続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中