Picture Power

【写真特集】震災を超えて「時の層」で紡ぐ 故郷・女川の物語

THE TIDE’S GIFT

Photographs by Mayumi Suzuki

2025年10月02日(木)19時05分
震災

女川の写真館跡地で撮影したセルフポートレート(2015年)。個の物語は女川の断片であり、町と海の記憶をつなぐ大きな層の一部でもある。

<東日本大震災の津波は、宮城県女川町の両親と実家、家業の写真館のすべてを奪い去っていった。三代目の写真家・鈴木麻弓が、祖父と父から「時の層」を受け継ぎ、未来へと紡ぐ故郷の物語。>

 私にとって「故郷」とは何か。2011年、東日本大震災の大津波が宮城県女川町をのみ込み、両親と生まれ育った実家、81年続いていた家業の写真館を失って以来、自分自身に問い続けている。

私は、写真館の3代目として被災した女川の地に立ち、町の風景を上空から眺め、過去の記憶と重ね合わせてきた。昭和の津波も、祖父が写した婚礼写真や仮設住宅前の家族写真も、全てが私の中で「故郷」を形作る断片である。


10月4〜26日に東京・京橋で開催される写真展『T3 New Talent 「Five Views」 Exhibition』で展示する本作『The Tideʼs Gift─女川の記憶を辿る』では、ドローンを用いた現在の町の空撮、住民たちのポートレート撮影を行う一方で、町に残る古い地図や建物のアーカイブ写真、写真館の先代が撮った肖像写真などを収集し、女川の変化とその背景を語る記憶のかけらを拾い集めた。

紙に塩水と硝酸銀溶液を塗布して感光紙を作り、ネガを重ねて紫外線で露光する古典技法「ソルトプリント」には女川の海水を用いて、町と海との深い結び付きを表した。あの津波がなければ、私が町の歴史を追憶することはなかったのかもしれない。海の水は、こうして女川の記憶を運んできた。

さまざまな手法を組み合わせることで町の多角的な記憶を積み重ねた。写真を収集する過程で過去と現在が交わり、祖父と父が町民を撮影した記録の集積が「時の層」として少しずつ自分の中に息づいていった。それは私に代々の写真家として託された使命であり、私自身が後世へ語り継ぐべき「故郷」の物語でもある。

復興が進むなかで、女川の人々がどのように将来を描き、家族の在り方を模索し、この町に住み続ける理由を探してきたのか。その過程を写真を通して記録し、不安と希望が交錯する女川の物語を静かに未来へと紡いでいく。

ーー鈴木麻弓(写真家)

Photographs by Mayumi Suzuki

鈴木麻弓(すずきまゆみ)
1977年、宮城県女川町生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。2011年の東日本大震災以後、女川町の人々の姿を記録し続ける。代表作に両親の遺志を探求した『The Restoration Will』(17年)、自身の不妊治療の経験を描いた『豊穣』(22年)など。日本大学芸術学部写真学科准教授


次ページ:【写真特集】震災を超えて「時の層」で紡ぐ 故郷・女川の物語 『The Tideʼs Gift─女川の記憶を辿る』から作品の紹介


T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2025 (写真祭の会期は10月27日まで)

<トークイベント>
PHOTO BOOK MARCHE TALK SESSION
『Found in Translation----東京とロンドンを結ぶ、写真の対話』
10月4日(土)12:30 - 13:30
登壇者:鈴木麻弓(写真家/日本大学芸術学部写真学科 准教授)
ソフィー・リケット(ロンドン芸術大学 写真学教授<Reader in Photography>)
会場: シティラボ東京(東京スクエアガーデン6階)

『T3 New Talent「Five Views」Exhibition』
アーティストトーク

モデレーター:池田佳穂
10月5日(日)17:30〜19:00
登壇者: 鈴木 麻弓、千賀 健史、南川 恵利、宮地 祥平、THE COPY TRAVELERS
10月16日(木)19:00〜20:00
登壇者: 鈴木 麻弓
会場:YANMAR TOKYO B1F HANASAKA SQUARE

T3 STUDENT PROJECT 2025 特別公開講座
『STORY × VISION ― プレゼンで世界をつかむ』
10月21日(火)19:30~20:30
講師:鈴木麻弓
会場:Zoom配信

<写真展>
『T3 New Talent「Five Views」Exhibition』
10月4日(土)〜26日(日)
キュレーター:池田佳穂
アーティスト:鈴木 麻弓、千賀 健史、南川 恵利、宮地 祥平、THE COPY TRAVELERS
会場:TOMOHIKO YOSHINO GALLERY

*トークイベント、写真展の詳細については、最新の情報を『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2025』のオフィシャル・ホームページで必ずご確認ください


【連載21周年/1000回突破】Newsweek日本版 写真で世界を伝える「Picture Power」2025年10月7日号掲載

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