コラム

中国で「割礼」がブーム?

2010年07月12日(月)12時19分

 上海に近い浙江省杭州市にある浙江大学医学部附属児童病院は、夏休みになると特に泌尿器科が忙しくなる。毎日70〜80人の男の子の「包茎手術」をしなければならないからだ。

 患者は主に6歳から12歳の小学生男児。病院によれば、09年に手術を受けた男児は約3500人。今年は1〜6月で既に2000人を超える男の子が「割礼」を受けた。今申し込んでも1カ月は待たなければならない――。(杭州日報・都市快報より)

 どうやら中国では包茎手術がちょっとしたブームらしい。特徴は親が「息子の息子」の心配をしているところ。6月に「高考」(全国大学統一入試)が終わると、上海のある病院には高校生の息子の包茎を心配した親からの電話が殺到したという。

 中国でも「包茎」については病院側が情報発信に熱心だから、本当にブームと言えるかどうか見極めは難しい。それでも1つの総合児童病院に毎日10人の子どもが手術を受けに来るというのは、例えそれが経済が発展した沿海部だとしてもかなり多い。

 都市快報によれば、浙江大学医学部附属児童病院の手術代は約800元(約1万円)。中国の都市住民にとって決して安くはないが、払えない金額ではない。小金を貯め込んだ都市住民が、一人っ子の「小皇帝」を猫かわいがりしている――とつい捉えてしまうが、コトはそんなに単純ではないかもしれない。

 包茎手術には、単に性交時の早漏を防ぐだけでなく、陰茎癌にかかるリスクを減らすメリットがある。ここまではわれわれ日本人もよく知っているが、「包茎手術をした男性は、しない男性に比べてエイズに感染する確率が60%減る」という情報はどうだろう。怪しげな病院の宣伝文句ではない。WHOの指摘だ。

 中国に2年弱住んだ筆者の経験から見て、中国人は日本人より性を医学的に受け止める。大半の日本人は「包茎」について語るとき、未だに気恥ずかしく感じると思うが(だから筆者も包茎を「包茎」と書いた)、中国人は恐らく日本人ほど抵抗感を感じない。だから病院にも平気で電話をかけるし、夏休みの手術にも殺到する。

 性に対する不必要な羞恥心が、必要な情報に対する目を曇らせているのだとしたら問題だ。

――編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story