コラム

「国家分裂」を公約に勝利した政党

2010年06月18日(金)10時00分

 総選挙の結果、第1党になったのは国家の分裂を願う政党だった・・・・・・。もちろん日本の話ではない。6月13日に行われたベルギーでの総選挙の結果、新フランドル同盟(N-VA)が大躍進。07年に実施された前回の8議席から27議席に議席を伸ばし、150議席ある下院で第1党となった。

 N-VAが掲げるのは、ベルギーの北半分を占めるオランダ語圏がベルギーから分離・独立すること。こうした主張は以前からオランダ語圏を中心に叫ばれてきたものであり、今回の選挙でついに、その声が形となって現れた格好となった。

 本誌5月5日号でも、イブ・ルテルム前首相が辞表を提出したことを受けて「再び国家分裂の危機」が迫っているとの記事を掲載した。

『フランス語圏とオランダ語圏、再び国家分裂の危機』


 4月22日、ベルギーのルテルム首相が辞表を提出し、政権が崩壊した。南部フランス語圏と北部オランダ語圏との間で長年対立を深めていたベルギーは、新たな政治的混乱に陥っている。

 それぞれの言語圏の政治家は、統一国家としてベルギーが存続する意義に疑問を投げ掛けている。オランダ語圏の分離独立派は議会で独立を求め、ヨーロッパ中のメディアはベルギーが分裂の危機にあると騒ぎ立てている。


 とはいえN-VAも、選挙前に主張していたオランダ語圏における社会保障や雇用政策といった自治権の拡大を、すぐに実行に移すことはできない。なにしろ第1党といっても27/150しかないのだから、まずは連立交渉が必要となる。

 しかし連立政権を組むためには、国家分裂に反対するフランス語圏の政党の協力も欠かせないため、連立協議には長い時間が必要となるだろう。07年の総選挙では、連立政権が誕生するまで9カ月もかかった。そのときは、国家分裂を叫ぶ政党が第1党ではなかったにもかかわらずだ。

 問題は、難しい連立協議に時間を割いている間にも、ベルギーには別の危機が忍び寄っているということだ。


 ベルギーが景気低迷から抜け出せずにいるだけに、タイミングとしては最悪だ。失業率は過去20年で最悪、国家財政は大規模な赤字に陥っている。政治不安によって投資家の信頼が低下する可能性があり、財界のリーダーらはベルギーが「北海のギリシャ」になりかねないと警告を発している。

 現在のベルギーが抱える政府債務残高はEU内において、対GDP比でギリシャ、イタリアに次ぐ高さの96.7%に上る。すぐにでも財政対策が必要な時期に連立交渉が長引けば、市場はますますこの国への不信感を強めていくことになるだろう。

 さらに問題なのは今回の選挙で第2党となり、連立協議の軸になると見られているフランス語圏系の社会党だ。経済政策に関する評価が低いだけでなく、汚職なども噂される。早期の減税と財政支出の削減を目指す右派・N-VAと、支出を続けると主張する左派・社会党の連立政権に、果たして財政問題の早期解決は期待できるだろうか?

──編集部・藤田岳人

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