コラム

南ア大統領「妻3人、子供20人で何が悪い」

2010年03月19日(金)11時00分

「ズマはセックスのことしか頭にない偏屈者。イギリスはなぜこんなゲス野郎にこびへつらうのか?」 

 これは、3月3日からイギリスを公式訪問した南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領に向けて、英大衆紙デイリー・メールが打った記事のヘッドライン。妻5人(現在は3人、1人は離婚、もう1人は自殺)との間にウン十人の子供(公式には20人だが、デイリー・メールは「実は35人!」と報じた)をつくっていることを非難したもの。

 デイリー・メールほどケンカ腰ではないにせよ、英メディアは多かれ少なかれズマの「一夫多妻ライフ」を興味津々に取り上げた。

 対するズマは、南アのスター紙に「ズールー文化を冒涜している。イギリス人は植民地支配にやって来たときと同様、いまだにわれわれを下等な野蛮人と見なしている」と反撃、物議を醸す初訪英となった。

 南アでは、一夫多妻はズールー族の伝統で、法律でも認められている。「一夫一妻を装いながら愛人や隠し子を持つより、一夫多妻の伝統を誇りに思う」というのが、ズマの昔からの主張だ。

 そういえば、タイガー・ウッズの不倫が発覚したとき、ニューズウィーク英語版のウェブにこんなコラムがあった。

「人間は元来、一夫一婦制が守れる生き物じゃない。浮気するのは人間の性。誰にでも複数の相手を持ちたいという願望はある。なのに多くの人が一夫一婦を選ぶのは、そうすることが正しいと思っているから。でもこの制度が非現実的で、しっくりこない人だっている。信仰の自由があるように、一夫一婦を選ばない自由があってもいいはずだ」と。

 ちなみに、これを書いたジェニー・ブロックは女性と浮気したこと、バイセクシャルであることを夫に告白。夫は仰天したけど、やはりお互いにかけがえのない相手だと確認、夫婦間以外の性的な関係を認める「オープン・マリッジ」で合意し、今は彼女と彼と彼女でハッピーに暮らしているらしい(なんともうらやましい)。

 と、こんな考え方もあることだし、まして国の法律で認められている結婚制度について、ズマがよその国からとやかく言われるなんて大きなお世話だと怒ったのも分かる。

 ズマの私生活を攻撃した英メディアは、現代社会に一夫多妻制はそぐわないとか言うけれど、言外に「ああ、お前たちはまだ文明化していないのか、困ったもんだ」と見下している感がある。好色呼ばわりするけれど、本音は70歳近いズマの精力に嫉妬なのでは?

 女性蔑視だとか言うけれど、3人の奥さんはみんな幸せそうだ。3人目を迎えたのは、つい数カ月前。野外で行われた結婚式には第1、第2夫人も参列。ズマ夫妻はヒョウ柄の伝統衣装をまとい、満面の笑みで踊ってた。

 ただし、ズマにもいただけないところは結構ある。過去にレイプ容疑で起訴されたり、「コンドームをつけずにセックスしてもシャワーを浴びれば感染しない」と言ったり。HIV感染率が高い国の大統領として、いや、人としてあってはならない言動だ。

 とにもかくにも、今回のズマの訪英がイギリスでちょっとした騒ぎになったのは事実。帰国の途につく頃には、メディア合戦も落ち着き、「ズマは過密スケジュールの疲れも見せずチャーミングなスマイルを残していった」と報じたところも。

 良くも悪くも、一国の元首としての存在感を示して帰っていったのは確かみたい。

──編集部・中村美鈴

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story