コラム

英総選挙、驚きの保守党圧勝を読み解くと

2019年12月14日(土)19時30分

ジョンソンは、今回の選挙で得た労働者階級の支持を、将来の選挙でも頼れる安定資産として考えるのでなく、保守党への「一時的な貸付」だと考えたほうがいいだろう。この層に今後も支持してもらいたければ、まずはブレグジットを実現するという公約を守る必要がある。

ジョンソンの「レンジでチンするだけで今すぐ」ブレグジットできる、との主張は正確さを欠く。EU離脱のプロセスは今後数年間続くし、イギリスはEUをただ去るだけでなく、国の新しい未来も切り開かなくてはならない。ましてやジョンソンは、社会の恵まれない人たちを助ける政策も実行する必要がある。力強い経済を築くこと、移民の流入をコントロールすること、国民保健サービス(NHS)を守ること、教育を向上させること、警察と刑事司法制度を強化して法と秩序を改善すること、などだ。いずれも、労働者階級の生活に直結する重要な政策であり、保守党が取り組み続けてきたことでもある。

* * *


今回の選挙でもう1つ指摘しておきたいのは、イングランドとウェールズが圧倒的に保守党支持になった、つまり、ブレグジット推進派の右派政党が今後5年に渡りイギリスを統治するということだ。スコットランドではさらに大差をつけて、反ブレグジットの左派であるスコットランド民族党(SNP)が台頭した。このコントラストはすさまじい。今後、スコットランド独立の是非を問う住民投票が再び実施されるのかどうかに関わらず、連合王国(United Kingdom)が政治的には団結(united)とは程遠いことがはっきりした。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、協力停止後もIAEAと協議継続 「数日中に

ワールド

米特使、イスラエルはレバノン和平計画に従うべき

ワールド

印政府、GST改革で小型車と保険料の税率引き下げ提

ワールド

ウクライナ東部で幼児含む7人死亡、ロシアがミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story