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焦点:シリア暫定大統領、反体制派から文民政府への脱皮に正念場 すでに汚職横行の指摘も

2025年11月07日(金)18時54分

 「政府の給与がそこまで高いとは知らなかった」──。写真はシリアのシャラア暫定大統領。5月27日、シリアのアレッポで撮影(2025年 ロイター/Khalil Ashawi)

Timour Azhari Feras Dalatey Suleiman Al-Khalidi

[ダマスカス 31日 ロイター] - 「政府の給与がそこまで高いとは知らなかった」──。

シリアのシャラア暫定大統領(43)は、ずらりと並んだ高級SUVを前に、こう冗談を飛ばした。場所は北西部イドリブ県。今年8月30日、かつて反政府勢力を率いていたシャラア氏が以前に本拠地として使っていた拠点に100人以上の忠実な部下が集まった。その多くが米ゼネラル・モーターズ(GM)の高級車ブランド「キャデラック」の「エスカレード」や「シボレー」ブランドの「タホ」、英ジャガー・ランドローバーの「レンジローバー」などの高級車に乗って駆け付けていたのだ。

傍らに治安当局の高官2人を従えたシャラア氏は、「革命の子であることを忘れたのか」、「あっという間に欲にまみれたか」と叱責を飛ばした。さらに、今は公務員となった忠誠派に対し、所有している高級車の鍵を渡さなければ、不正利得の疑いで捜査対象になると通告した。演説の締めくくりに、実際に手渡された鍵はごくわずかだったという。

シリアのアサド政権が、14年に渡る内戦の末追放されてから10カ月。武装組織の司令官から転じたシャラア氏にとっては、新政権に連なる元反体制派の間で衝突が散発し、2000人以上が死亡するなど、激動の10カ月となった。強制立ち退きや資産差し押さえも相次いでいる。

出席者らがロイターに明らかにした8月の集会での一幕は、これまで報じられていなかった。シリア当局者とアナリストによれば、忠誠派に向けられたシャラア氏のメッセージは、大統領が直面する核心的課題を浮き彫りにしている。アサド体制の警察国家のような慢性的な腐敗を再生産することなく、反乱勢力から文民政権へとどう脱皮するか、だ。

アサド氏の追放に成功したことでシャラア氏が国内外で手にした正当性の評価も、その成否にかかっている。

「シャラア氏には拠り所となる制度的枠組みも、参照すべき教科書もない」と、イスラム主義グループ研究者のホッサム・ジャズマティ氏。「彼は国家機関ではなく、派閥の産物だ。2003年以降、武装勢力という環境に身を置いてきた」。権力の基盤は「同盟、縁故、独占」に置かれてきたという。

さらにジャズマティ氏は、いま忠誠派が戦利品をむさぼれば、彼の権力固めは揺らぐと指摘する。「統治を持続させるには多額の財源が要る――私益のためだけではなく、権威を保つためにも」

シリア情報省はロイターに、シャラア氏がイドリブ県で旧司令官や官僚、名士らと「友好的で非公式の会合」を開き、政治・治安上の課題に加え、旧政権が築いた「投資文化」を改める必要性を議論したと説明した。 同省は「国家公務員のいかなる汚職の疑いも容認しないと強調した」と述べ、車の鍵が手渡されたとの指摘は否定した。

<兄も締め出す>

シャラア氏は身内でもバランスを取るのに苦心している。

2人の兄は新政権の要職に就いている。ハーゼム氏は国内外の事業・投資を統括し、経済再編に当たる元反政府戦闘員の取り組みも所管。産婦人科医でシリアとロシアの二重国籍を持つマーヘル氏は大統領府の事務総長として公式会議を主宰し、各国要人との協議に同席。今月のモスクワでのプーチン大統領とシャラア氏の会談にも同席した。

複数のシリア政府関係者によると、シャラア氏が親族や親しい人物に頼るのは、アサド政権の予想外の崩壊を受けて生じた権力の空白を素早く埋める必要があったためだという。アナリストらは、これは旧体制下の一族支配の模倣になるとして懸念している。

しかし、政府高官や財界人を含む6人の関係者によれば、もう一人の兄、実業家のジャマル氏は、シャラア氏の反汚職活動によって挫折を味わったという。

シャラア氏の暫定大統領就任後、兄ジャマル氏は首都ダマスカスに事務所を構え、そこから輸出入や観光業などさまざまな事業を展開していた。高級ホテルのロビーやレストランでよく見かけるようになり、色付きの窓とナンバープレートのない黒のメルセデス・ベンツの「Sクラス・サルーン」を乗り回していた。

関係者がロイターに語ったところでは、シャラア氏は8月に事務所を閉鎖するよう命じ、政府機関に兄と取引しないよう指示した。この決定は、ジャマル氏が身内の大統領とのつながりを利用して、私腹を肥やすために政府やビジネス界の人物との何十回もの会合をセッティングしたという疑惑に関するものだったという。

ロイターの記者は今月、オフィスが閉ざされ、鍵がかかっているのを確認した。中から何も応答はなかった。

ジャマル氏はロイターへの声明で、ダマスカスには個人事務所も商業活動もなく、政府の公式の役職にも就いていないとし、「オフィスの存在や会合に関する報道は、まったくのでっち上げだ」と述べた。

ジャマル氏の事務所を閉鎖した直後、シャラア氏は79歳の父親を含む家族と会合を開き、個人的な利益のために家名を利用しないよう警告したという。  

<従業員の釈放に20万ドル>

出席者によれば、シャラア氏の警告は、8月初旬に開いた市民との会合で、「公務員になった元反政府戦闘員の一部が、にわかにぜいたくを始めた」との苦情が相次いだことを受けたものだ。シャラア氏はそれ以来、公の場で反汚職のメッセージを繰り返し出している。

国営メディアが公開した10月13日の映像では、同氏は公務員に対し、既存の投資を報告するよう求め、新たな民間プロジェクトへの参入を禁止すると述べた。また、ビジネスマンとの個人的な関係は避けるべきだとし、アサド政権下で見られたような振る舞いを繰り返さないよう警告した。

それでも汚職は後を絶たず、人々は賄賂を支払って刑務所から出たり、押収された家や車などの貴重品を取り戻したりしている。

ある実業家と2人の工場経営者は匿名で、領収書や正式な書類なしで、コネのある仲介者に現金を支払うことを余儀なくされたと語った。事業を継続させたり、アサド政権との過去のつながりの疑いで拘束された従業員を釈放してもらうためだという。

このうち1人は、従業員の釈放のために10万ドル(約1540万円)を支払ったが、その従業員に仕事を再開させたければさらに10万ドルを支払う必要があると言われたという。ほかの一人は、従業員を釈放してもらうために2万5千ドルを支払ったと語った。ロイターはこれらの証言内容を独自に確認できていない。

情報省は、このような慣行は広まっておらず、拘束者の釈放やその他の公務と引き換えに賄賂を受け取った疑いのある何人かは「直ちに捜査対象」になったと表明した。

取材によれば、シリアのビジネス界で問題とされているのは、アサド氏との関係を告発された人々と政府高官の間で結ばれる和解取引の不透明なプロセスだ。事業主が資産を差し出す見返りにシリアでの操業再開を認められる仕組みで、アサド政権が崩壊した直後から横行し始めた。

当局は、こうした和解をすべて、5月に発足した不正利得についての委員会を通す形に一本化し、資産は設立準備中の新たなファンドに移す方針だ。事情に詳しい政府当局者と実業家ら6人が明らかにした。

この基金は現在、アサド政権との関係が疑われる人物に関連する企業やオフィスビル、工場など数百件の資産を保有している。

一方で、この2つの新組織もまた、捜査対象となっている。

関係者によれば、同基金に勤務する弁護士2人が汚職容疑の捜査で逮捕され、うち1人は1カ月以上勾留中だ。

情報省は逮捕を認め、弁護士らが「窃盗疑惑」をめぐって捜査対象になっていると説明した。また、不正利得についての委員会の一部メンバーも、不正関与の疑いで事情聴取に伴って身柄を拘束されているが、正式逮捕には至っていないという。

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