米農務省の職員が大量退職、鳥インフルエンザ対策に影響も

5月12日、米農務省の家畜衛生部門の獣医師やサポートスタッフ、研究員数百人がトランプ政権の要請を受けて退職し、動物疾病の感染拡大に対応できる専門家の体制が手薄になっている。写真は2024年8月、ウィスコンシン州ウエストアリスで行われたステート・フェアに展示されたウシ(2025年 ロイター/Jim Vondruska)
Leah Douglas Tom Polansek
[12日 ロイター] - 米農務省の家畜衛生部門の獣医師やサポートスタッフ、研究員数百人がトランプ政権の要請を受けて退職し、動物疾病の感染拡大に対応できる専門家の体制が手薄になっている。事情に詳しい3人の関係者が明らかにした。
米国では鳥インフルエンザの流行が長引いているほか、メキシコで生きたウシの組織を食い荒らすラセンウジバエの被害が確認されて米国も対応を迫られるなど、動物の公衆衛生上の非常事態が続いている。
カンザス州動物衛生局長のジャスティン・スミス氏は、 「農務省の獣医職の減少により、継続的な規制の施行や、疾病調査、対応計画の策定や準備を行える獣医師が手薄になるのではないかと懸念されている」と述べ、「地域の獣医のニーズへの対応が遅くなったり悪くなったりする可能性がある」と付け加えた。
米国では今年、鳥インフルエンザの流行で卵を生むニワトリが数百万羽減少し、卵の価格が記録的な高値を記録。ここ数週間は感染数は減少傾向にあるものの、専門家は、春と秋の渡り鳥の移動時期に再び感染が拡大する可能性があると警告している。
農務省では、実業家イーロン・マスク氏が先頭に立って進めた連邦政府職員の削減策の一環で、職員の約15%にあたる1万5000人以上が金銭的インセンティブを受け取って退職した。
この大量退職により、農作物に被害をもたらす害虫や家畜の病気と闘う機関である動植物検疫課(APHIS)は1377人の職員を失った。連邦人事管理局のデータに基づくロイターの分析によると、これはAPHIS職員の約16%に相当する。
関係者によると、退職者のうち約400人は、全米および世界各地で農家と協力して家畜の病気検査や蔓延防止に取り組む同課の獣医サービス部門の職員で、部門の職員1850人の約2割に当たる。
ロイターが閲覧した退職者の資料と事情に詳しい関係者によると、退職者には全国の獣医業務を監督する同局の地域獣医師23人のうち13人が含まれている。
別の関係者によると、鳥インフルエンザなどの動物の病気を検査する農務省の研究所の職員も2-3割が退職するという。
さらに、残った職員も1万ドルを超える調達にはマスク氏の政府効率化省(DOGE)の承認を得る必要があり、最大4週間の遅延が発生する可能性があるという。
農務省はコメント要請に応じなかった。
<一大事>
APHISの職員大量退職により、依然として感染が広まった状態にある鳥インフルエンザへの対応能力が脅かされていると、州の家畜衛生担当獣医3人と別の関係者3人は指摘した。
2024年以降、農業従事者を中心に70人が鳥インフルエンザのウイルスに感染している。鳥の間でさらなる感染拡大が起きれば人間への感染性が強まるリスクが上昇すると専門家は指摘している。米国疾病対策センター(CDC)は、鳥インフルエンザによるヒトへのリスクは依然として低いとしている。
地域の獣医師の責任分野には、感染した家禽(かきん)集団の殺処分の支援や損失に対する補償の支払いのサポートも含まれると、サウスダコタ州の獣医師ベス・トンプソン氏は言う。
職員削減の資料を目にした同氏は、「連邦政府は、州を支援できるだけの人員を確保できないだろう」と述べ、「これは大きな問題だ」と指摘した。
トンプソン氏によると、農務省のローズマリー・シフォード主任獣医は、さらなる退職者を確認した後、残りの地域の獣医をどう組織するかを決定すると話したという。
別の関係者によると、APHISの退職者には、鳥インフルエンザなどの問題について議員や外部団体、報道機関とのやり取りを担当する立法・広報室69人のうち約半数も含まれる。
ニューメキシコ州では、農務省のサポートスタッフが辞職したため、州の職員が追加の職務を引き受けていると、同州のサマンサ・ホレック獣医師は述べた。
「影響の全容はすぐには分からない。チームとして協力し、これらの課題すべてを乗り越えなければならない」と、ホレック氏は話した。