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アングル:インド猛暑で生鮮食品の冷蔵に課題、露天商らに打撃

2024年07月02日(火)14時05分

インド北部を襲う猛烈な熱波は、市場で果物や野菜を販売する人々に二重の打撃を与えている。商品が傷みやすくなるだけでなく、買い物客も外出を控え、オンラインで注文しているからだ。写真は2022年3月、コルカタの市場で撮影(2024年 ロイター/Rupak De Chowdhuri)

Bhasker Tripathi

[ニューデリー 27日 トムソン・ロイター財団] - インド北部を襲う猛烈な熱波は、市場で果物や野菜を販売する人々に二重の打撃を与えている。商品が傷みやすくなるだけでなく、買い物客も外出を控え、オンラインで注文しているからだ。

10年前にデリーに移ってきた30代半ばのサヒルさんは、道端の屋台で野菜を売っている。「今年の暑さには打ちのめされている」と語る。

サヒルさんは毎日近所の卸売市場で野菜を仕入れるが、商品のかなりの部分はすでに見た目が悪くなっている。

「ひどく気温が高いので野菜が乾いてしまい、棚に並べて2、3時間もすれば色が悪くなってしまう」とサヒルさん。「そして、ごらんのとおり、まったく客が来ない」

5月半ば以降、日中の気温は40度以上で推移している。当局者によれば、熱波により100人以上が死亡し、4万人が熱中症にかかった。

サヒルさんの月収は1万5000ルピー(約2万9000円)前後だったが、この2カ月はほぼ半減の8000ルピーにまで落ち込んでしまったという。

デリー近郊の市場では、モハメド・アクラクさんが商品のココナツに当たる日射しを遮ろうと苦心している。ここまで売れ行きが落ち込んだことは記憶にないと話す。

「40年間生きてきて、これほど厳しい夏は初めてだ」とアクラクさんは言う。

アクラクさんは、この2カ月間、商品の30─40%を暑さのために失ったと話す。客が外出を控えてオンラインで購入するようになったこともあり、アクラクさんもやはり収入が半減したという。

インドは3年連続で厳しい熱波に悩まされている。科学者らは、地球温暖化により、こうした熱波の深刻さや頻度は高まり、影響を受ける地域も広がっていると指摘する。

インドにとって、食糧安全保障を確保し、農業セクターに従事する人々の生活を守ることが課題となっている。

<冷蔵設備の不足に悩まされる小規模農家や販売者>

インドの果物・野菜生産量は過去最高の水準に達しているものの、政府が行った調査によれば、サプライチェーン内の冷蔵インフラの整備は「始まったばかり」で、果物・野菜の4分の1が廃棄されてしまっているという。

食料システムに関するグローバルな研究パートナーシップ「CGIAR」の気候変動適応・影響緩和行動プラットフォームで、ディレクターを務めるアディティ・ムケルジ氏は、異常な高温は2つの面で問題を深刻化させると述べた。

「1つは作物の生産量そのものの減少だ。大半の作物はこうした酷暑のもとでは育ちが悪くなる。第2に、果物や野菜、乳製品のような傷みやすい商品については、冷蔵サプライチェーンの未整備が問題になる」

サプライチェーン全体で冷蔵設備が不足しているために、商品を消費者のもとに迅速に届けなければというプレッシャーが高まっている。

その影響を特に感じているのが、インド全体で約500万人と言われる小規模な販売者や行商人だ。大半は商品を低温に保つ手段を持たず、酷暑のもとでの労働を強いられている。

グリーンピース・インド支部と全国行商人連盟が6月に公表したアンケート調査によれば、デリーの露天商の約80%は「購入客が減った」、半数が「熱波が原因で収入が減少した」と回答した。

<「クールな」解決策を求めて>

政府は、畑から売り場に至る一貫した冷蔵インフラの構築に向けて約1000億ドル(約16兆円)を提供しているが、この計画は大規模な冷蔵施設の構築に重点を置いている。

だが専門家によれば、インドでは供給の大半を小規模な販売者や行商人が担っているにもかかわらず、こうした売り手の支援に注力する小規模な冷蔵チェーンに向けた方策は不足している。

ムケルジ氏は「残念ながら、小規模な農家や販売者の保護に関しては、既製の解決策は存在しない」と語る。

とはいえ、市場には小規模な冷蔵チェーンに向けた有望なイノベーションがいくつか登場している。

ムンバイのインド工科大学を卒業したビカシュ・ジャー氏は、小型で低コストの冷却装置を発明した。電気もガスも使わず、水と空気の流れだけで収納物の温度を10─21度の間に保ち、食品の保存可能期間を延ばす。同氏によれば、インド各地ですでに1500台を販売したという。

ジャー氏は「政府の政策は、資本とエネルギーを大量に消費する大規模な冷蔵設備を推進している。インドの温室効果ガス排出量はただでさえ多いのに、これではさらに環境負荷が増大してしまう」と述べ、小規模な農家や販売者を支援する解決法が求められている、と続けた。

冒頭で紹介した果物販売のアクラクさんは、どうすれば店を維持していけるか途方に暮れているという。

「こうした状況が今後も続くようなら、子どもたちの将来が心配だ」とアクラクさん。「誰かに助けてもらわなければ」

(翻訳:エァクレーレン)

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