ニュース速報

ワールド

焦点:汚染咳止めシロップでインドなど死亡数百件、米当局も検査強化へ

2023年09月30日(土)15時34分

 米食品医薬品局(FDA)は、国内外の製薬会社数十社の製品検査に不適切な点がある疑いで調査を進めている。海外で、有害成分が含まれていた咳止めシロップによる死亡例が数百件起きていることを受けた措置だ。写真は、汚染された咳止めシロップを服用後に死亡した、2歳の息子の画像を見せるインド人夫婦。3月28日、インドのジャンムーで撮影(2023年 ロイター/カメラマンの名前)

Patrick Wingrove

[26日 ロイター] - 米食品医薬品局(FDA)は、国内外の製薬会社数十社の製品検査に不適切な点がある疑いで調査を進めている。海外で、有害成分が含まれていた咳止めシロップによる死亡例が数百件起きていることを受けた措置だ。

FDAは今年、毒性のあるエチレングリコール(EG)とジエチレングリコール(DEG)に関し、市販薬および消費者向け製品の適切な成分検査を証明していないことを理由に、少なくとも28社を処分した。ロイターがFDAの輸入警告リストおよびメーカー向けの警告書を分析したことで判明した。

処分を受けたメーカーには米国拠点の企業もあれば、インドや韓国、スイス、カナダ、エジプトなど海外の輸出企業もある。

ロイターの分析によれば、2023年にEGおよびDEGにより汚染されやすい原材料の検査を怠ったとしてFDAの警告を受けたメーカーの数は、過去5年間の合計を上回っている。

FDAはロイターに対し、DEGおよびEGに汚染された製品が米国のサプライチェーンに流入したことを示唆するものではないと説明した。さらに、一定期間内における警告件数は「FDAによる監督状況を包括的に示唆するものではない」と述べている。

ワシントンDCの法律事務所ポール・ヘイスティングスに所属するピーター・リンゼイ弁護士は、FDAによる規制やコンプライアンスが専門だ。汚染された製品をより確実に発見できるよう、FDAはメーカー各社に対し原材料のサンプリング検査だけではなく、成分の入った容器を個別にチェックするよう求めていると語る。

「FDAは要求水準を少しだけ上げ、これらの分野に潜むリスクの一端を業界に理解・認識させようと努めている」とリンゼイ氏は言う。

インドとインドネシアで製造された咳止めシロップにより、世界全体で300人以上の子どもが死亡したとされる。これらの製品は高レベルのDEGおよびEGを含んでおり、急性腎障害を引き起こし死に至らしめたことが判明している。

こうした有毒物質による汚染事故に対し、捜査や訴訟が始まっているほか、世界各国での規制当局による調査も急増している。関連するインドの製薬会社数社は、製薬に適した品質の原材料を購入したことや、自社の薬品について有毒物質の検査を行ったことを立証できていない。

米国では1930年代、子どもを中心として100人以上がDEGの混入により命を落としている。これを契機とした立法措置により、医薬品に関するFDAの規制権限が大幅に強化された。

ところがFDAは2023年5月になるまで、プロピレングリコール(PG)やソルビトール溶液のようなハイリスクな成分について、EGおよびDEGによる汚染を検査するという明確なルールを定めていなかった。

2007年以来用いられていた従来の指針では、DEG汚染製品の流通を予防するため、市販薬および消費者向け製品でよく使われる成分であるグリセリンに関して所定の検査実施を推奨してきた。現在ではDEGやEGについても、PGやその他のリスクの高い成分と同様の厳格な検査を求めている。

<輸入警告リスト>

FDAの警告書ではメーカーに品質管理問題の解決に向けた猶予を与えているが、解決しない場合は罰金が科される。

米国および外国のメーカー28社に送付された警告書は、検査実務を改善しない場合は、製品の輸出入、当該企業による新薬の承認申請を拒否すると警告している。

これらメーカーの半数には輸入警告も送付された。税関職員に検査なしでリスクのある製品を留め置く権限を与えることで、国内への流入を禁止する措置だ。

FDAが警告対象としたメーカー11社は今年、下痢止めや結膜炎の治療薬、歯磨き粉、日焼け止めなど汚染リスクのある自社製品の一部を子ども向けに販売しているという。

子どもに投与できる咳止めや風邪薬を下請け製造する米レックス社(フロリダ州)は、検査が不適切であり、2004年に遡って品質管理基準への違反を繰り返しているとして、8月17日にFDAに召喚された。

レックスの共同オーナーであるシャーリーン・パズ氏は、FDAに指摘された問題は対処済みであり、EGおよびDEGが混入しやすい原材料を調達した場合には、必ず不純物に関する必要な検査を実施していると述べた。

輸入警告リストには、DEGおよびEGが混入しやすい製品を販売している外国メーカー14社が、適切な品質管理を立証できていないとして掲載されている。マウスウォッシュの「オリオックス」などを製造する韓国のLCC、インドの歯磨き粉製造会社スーハン・エアロゾルとオーキッド・ライフサイエンシズの名前もある。

LCCの広報担当者は、FDAへの回答を準備中だと述べた。スーハンとオーキッドは、自社製品にはEGおよびDEGの混入は見られないとしている。

外国メーカー14社のうち、インドのダクサル・セラピューティクスとスカイライン・ハーバルズ、韓国のKMファーマシューティカル、サングリーフファーマの4社は、記録提出の要請に応じていないとして輸入警告リストに記載された。コメントを取ろうとしたが、いずれも連絡がつかなかった。

このほか、レックスを含め、耳かきやスプレー式点鼻薬、ハンドソープ、シャンプーなど消費者向け製品の米メーカー13社は、FDAから製品差し押えや販売差し止め命令を受ける可能性があるとされている。

FDAは、これら13社においては、必要とされる汚染検査を実施しておらず、複数の例では成分の純度についてサプライヤーからの分析証明書だけに依存しているなどの問題点があったと述べている。

マサチューセッツ薬学・健康科学大学で薬理学・毒物学を専門とするグレッグ・ランドリー氏は、あらゆる消費者向け製品について厳しく監督することは難しいと指摘しつつ、FDAが問題に気づいた以上「その対応は、迅速かつ強力であるのが普通だ」と話している。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中