ニュース速報

ワールド

アングル:コロナで豪ネットギャンブル大盛況、損失は世界最大

2022年10月02日(日)07時38分

 オーストラリアは国民1人当たりのギャンブルによる損失額が世界最大だが、パンデミックでギャンブル施設が閉鎖を余儀なくされたため業界に変化が生じ、従来よりも規制が難しいオンラインギャンブルで遊ぶプレーヤーが増えている。9月19日、シドニーのパブでポーカーマシンに興じる人(2022年 ロイター/Loren Elliott)

[シドニー 29日 ロイター] - コーヒー業界の技術者でオーストラリアのシドニーに住むリース・ウェアハムさん(31)は、2020年に新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が始まると自宅にこもっただけでなく、毎日午後にパブを訪れてポーカーマシンで遊ぶこともやめてしまった。その代わりにはまったのがスマートフォンのギャンブルアプリで、どこにいようとお気に入りのスポーツである野球に賭けている。

「ギャンブルはやめられない」と話すウェアハムさん。幼い子どもがおり、8年前に自己破産する原因となった3万豪ドル(1万9968米ドル、約288万円)のギャンブルの負債は3分の2を返済した。「午後はパブで何百ドルも散財していたけれど、今はスポーツの賭けアプリにカネを注ぎ込んでいる」という。

オーストラリアは国民1人当たりのギャンブルによる損失額が世界最大だが、パンデミックでギャンブル施設が閉鎖を余儀なくされたため業界に変化が生じ、従来よりも規制が難しいオンラインギャンブルで遊ぶプレーヤーが増えている。

ギャンブルアプリを提供している企業は、オーストラリアで最も人気の高い賭けアプリ「スポーツベット」を展開する英フラッター・エンターテインメントなど、ほとんどが外資系。ギャンブル施設と異なり、規制の対象外であるテキストメッセージを使った販促活動といったマーケティング手法が追い風になっている。

モナシュ大学公衆衛生・予防医学部のデータによると、2021年のポーカーマシンのプレーヤーの損失は114億豪ドルで、ロックダウン開始前の19年比で11億豪ドル、17%減った。

しかしオンライン・スポーツ・ギャンブルのプレーヤーの損失は同じ期間に32億豪ドル、80%増えて71億豪ドルとなったことが、業界コンサルタント会社H2ギャンブリング・キャピタルのデータから分かる。これは販促でよく配布されるクレジットを除いた数字だ。

H2によると、全世界でみるとオンライン・スポーツ・ギャンブルにおけるプレーヤーの損失は58%増加。オーストラリアは人口が3倍近い英国を抜き、米国、日本に次ぐ3位に入った。

H2のシニアコンサルタント、エド・バーキン氏は「オンラインのギャンブル事業者は実施設で遊んでいたはずの顧客を奪い合っている」と話した。「厳しいロックダウンも、オーストラリアがオンラインギャンブルの拡大で上位にランクインする原動力となった」という。オーストラリアでは昨年10月まで移動制限が敷かれていた。

<世界規模の課題>

ギャンブル業界は数十年にわたり規制が緩和された。その後、年間250億豪ドル、1人当たり1000豪ドルと米国の2倍以上のお金を吸い上げるギャンブル業界を巡り国民の関心は高まっているが、政府は税収や業界のロビー活動を考慮して軌道修正に慎重だ。

中道左派の新政府は今月、オンラインギャンブルについて議会で調査を行うと発表したが、2015年に行われた調査の勧告の幾つかがまだ実施されていない。

前回の調査後、州政府と連邦政府は2020年5月までに、ギャンブルアプリのプレーヤーが自己申告によって利用を制限する登録制度を構築することで合意した。しかしオーストラリア通信メディア庁によると、登録はかなり進んではいるが、まだ運用に至っていない。

<まるで米国の銃のよう>

ロックダウンは社会性の面でさまざまな形態の悪を生み出し、ギャンブルは「社会的に孤立したり、退屈している」若い男性の間で魅力が高まったと、オーストラリアギャンブル研究センターのエグゼクティブマネージャー、レベッカ・ジェンキンソンは指摘する。

「指先ひとつで、24時間いつでも、オンラインを通じてギャンブルにアクセスできる。ギャンブルが身近にあり、盛んに宣伝されているからこそ、手を染める」

もっともオーストラリアではポーカーマシンが非常に根付いており、オンラインギャンブルがすぐに主役に躍り出ることはないと専門家はみている。国内には約20万台のポーカーマシンがあり、ギャンブル施設は通常通りの営業に戻っている。

ギャンブル依存症患者を支援する非営利団体ウェズリー・ミッションは政策提言の中で、「米国に銃があるようにオーストラリアにはポーカーマシンがある」と指摘。「これは国の恥だ。私たちの多くは、ポーカーマシンが自分たちの知人や愛する人に害を及ぼしていることに気づいていない」

ウェアハムさんはもうポーカーマシンで遊んでいない。家族への責任がオンラインギャンブルを控えるのに役立っているという。少なくとも給料を全額、一度につぎ込むことはなくなった。

「25歳にもなって何百万ドルも手に入ると思っている人にこう言いたい。そんなことはありえない。何百万ドルも失うことになる、と」

(Byron Kaye記者、Praveen Menon記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中