ニュース速報

ワールド

アングル:新型コロナ、次の革命的療法は「人工抗体」か

2020年08月07日(金)11時36分

8月3日、世界は今、新型コロナウイルスのワクチンを待望しているところだが、次の大きな前進はがんなどの治療に広く用いられている生命工学的な抗体療法から得られるかもしれない。 写真は5月、新型コロナウイルス向け抗体を開発中の企業の米カリフォルニア州サンディエゴにある研究所で撮影(2020年 ロイター/Bing Guan)

[3日 ロイター] - 世界は今、新型コロナウイルスのワクチンを待望しているところだが、次の大きな前進はがんなどの治療に広く用いられている生命工学的な抗体療法から得られるかもしれない。

新型コロナウイルスを特定して攻撃する「モノクローナル抗体」(特殊な細胞の複製から作り出す抗体医薬品)の開発は有力科学者らからお墨付きを得ており、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長も、新型コロナに対する「確実性がかなり高い手法」と評価している。

ウイルスがヒトの体内に入って最初の防御を通過すると、もっと特殊な抗体反応が開始、侵入ウイルスを標的にする細胞が作られる。そうした細胞には、ウイルスを認識して封じ込め、感染の広がりを防ぐ抗体が含まれる。

科学者は新型コロナ感染からの回復に抗体が果たす役割をなおも解明中だ。しかし製薬メーカーは適切な抗体やその組み合わせが感染の進行を変えられると確信している。

リジェネロン・ファーマシューティカルズのクリストス・キラトソウス最高経営責任者(CEO)はロイターの取材に「抗体は感染を防ぐことができる」と語った。同社は2種類の抗体から成る「抗体カクテル」を実験中。2種類を使うのは、1種類だけよりもウイルスがすり抜けるのを止めやすいだろうという考え方だ。実験の有効性データは今夏の終わりか秋の初めまでに得られると見込んでいる。

米政府は6月、リジェネロンと新型コロナ抗体の4億5000万ドル分の供給契約を結んだ。同社によると、当局の承認が得られれば速やかに米工場で生産を開始できる。

米イーラリ・リリー、英アストラゼネカ、米アムジェン、英グラクソ・スミスクラインは、こうした療法の成功が証明された場合に供給を大量化するための製造資源共有計画について、米政府から承認を得ている。製薬ライバル社同士のこうした協力は異例だ。ただ、モノクローナル抗体の製造は複雑で、なおも生産設備能力は限られている。

アストラゼネカは、2種類の抗体の組み合わせの臨床試験を数週間内に始める計画としている。その一方、イーライリリーも6月に2種類の抗体候補の臨床を始めたが、同社としては1種類の投与法に重点を置いていく構えだ。

一方、体内の独自の免疫システムを活性化させるワクチンと異なり、モノクローナル抗体は効果がいずれ消える。それでも製薬メーカーは、医療従事者や高齢者など高リスクな人々への感染を一時的に防ぐには有効ではないかとしている。ワクチンが広く入手されるようになるまでのつなぎ的な療法としても使えるかもしれない。ビル・バイオテクノロジーの主任メディカル責任者、フィル・パング氏は「予防的な意味合いとしては、我々は最大半年間、有効かもしれないとみている」と語った。

モノクローナル抗体の安全性リスクは低いと考えられているが、費用は高額になる可能性がある。がんのモノクローナル抗体の場合は年間10万ドル以上かかる可能性がある。また、新型コロナウイルスが特定の抗体に耐性ができる可能性も懸念されている。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席へ ウ和平交渉重大局面

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 運

ワールド

感謝祭当日オンライン売上高約64億ドル、AI活用急
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中