ニュース速報

ワールド

アングル:イタリアでコロナ「隠れ死者」増加、高齢者施設の実態

2020年03月27日(金)08時36分

 新型コロナウィルスの感染拡大によるイタリア国内の死者数が公式統計で2500人を超える一方、イタリアの高齢者介護施設では1日数十人がウィルス感染の検査を受けずに死亡している。写真は16日、ローマの病院でストレッチャーを運ぶ職員(2020年 ロイター/Remo Casilli)

[ミラノ 18日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大によるイタリア国内の死者数が公式統計で2500人を超える一方、イタリアの高齢者介護施設では1日数十人がウィルス感染の検査を受けずに死亡している。新型コロナによる実際の死者数は公式発表の数を上回っている可能性をうかがわせる。

イタリアでは、新型コロナウイルスの陽性確認件数が公式データで3万人近くに達しており、最初に感染が生じた中国を別とすれば世界最多となっている。

だが検査については厳しい基準があり、いわゆる「スワブ法」による検査を受けられるのは、通常、入院した重症患者のみである。

詳細なデータは入手できないものの、当局者、看護師、親族らによれば、新型コロナウイルスが確認されて以来、感染拡大が最も深刻なイタリア北部の高齢者介護施設では死者数が急増している。だが、その状況は新型コロナウイルス関連の統計には反映されていない。

「亡くなった場所が自宅や高齢者介護施設で、ウィルス感染の検査を受けていないために、感染による死亡と見なされていない例がかなりの数に上っている」とベルガモ市長のジョルジオ・ゴリ氏は言う。

<死者数が「不自然な」増加>

ゴリ市長によれば、ベルガモでは今年3月の最初の2週間で164人の死者が発生し、そのうち31人が新型コロナウィルスによるものとされている。これに対して、昨年同時期の死者数は56人だ。

新型コロナウィルスによる31人を足したとしても、昨年に比べて77人も死者が増えた計算になる。ウィルスによる実際の死者は公式に記録されているよりもかなり多い可能性を示唆している。

イタリア北部の街クレモナにある460人収容の高齢者介護施設「クレモナ・ソリダーレ」のエミリオ・タンツィ所長は、高齢者介護施設は、高齢者を中心に犠牲を生んでいる今回の危機の最前線に置かれているが、それにもかかわらず十分な支援が得られていない、と話す。

タンツィ氏は、イタリア国内で感染拡大が加速しはじめた3月2日頃から、介護施設での死亡がかなりの幅で「不自然に」増えていたという。

だが、これが新型コロナウィルスによる疾病「COVID-19」によるものかどうかを知る方法はなかった、と同氏は言う。

タンツィ氏は全体の数字については伏せているが、同氏の施設では、先週のある1日だけでも、新型コロナウィルスに関連する症状である呼吸困難を伴う患者18人が亡くなったという。

「検査が行われていないから、新型コロナウィルスによる死者かどうかは分からない」と彼は言う。「しかし確かに、高熱と呼吸困難は見られた」

「もし新型コロナだと分かっていれば、こうした患者を適切に隔離して、蔓延を防ぐことができただろう」

<介護施設は「見捨てられた」>

2月21日に北部イタリアで初の新型コロナウィルス感染が確認された直後から、高齢者介護施設では来訪を禁止した。この疾病に対して最も脆弱とみられる高齢の入居者への感染リスクを抑制するためだ。

クレモナ県の高齢者介護施設30カ所をまとめる協会ARSACのウォルター・モンティニ会長は、36人収容の小規模介護施設で1日7人の死者が出たと話す。

「明らかに死亡例が増えている。クレモナの地元紙を見るだけで分かる。通常、訃報欄は1ページしかない。今日は5ページもある」

モンティニ会長は3月2日、介護スタッフ向けにマスクを供給するよう要請を行ったが、品薄の状況を考慮し、病院のニーズの方が高いと判断されてしまった。モンティニ会長は、介護スタッフの検査も必要だと話すが、実際には行われていないという。

現地の保健当局は検査・治療に関する政府の指令を受けていると述べており、それによれば、入院が指示されるのは「呼吸器系の重い症状」のある患者に限られてるという。

いわゆる「レジデンツェ・サニタリエ・アシステンツィアリ(長期介護ホーム)」には、患者の治療を行うことのできる有資格医療スタッフが配置されているという。

クレモナ地域の小さな街にある長期介護施設で働く看護師は、こうした施設は「見捨てられている」と言う。

この看護師が担当するセクションでは、40人の入所者のうち38人が高熱を出して寝込んでいるが、介護スタッフは適切な防護服もなしに働かざるをえないという。だが地元の病院は、毎日数千人も報告される新規感染者のためにすでにパンク寸前の状態にあり、移送の手配をすることなど不可能だと分かった。

「体調が悪くなった人は、施設内の医師による診察を受けられる」と彼女は言う。「呼吸困難になった場合は病院に移送しようとしているが、この施設内の患者40人のうち、何とか病院に移送できたのは2人だけだ」

ロンバルディア州の地域保健当局の広報担当者は、この状況についてコメントはできないとしつつ、詳細を確認中だと話している。イタリア政府からは今のところコメントは得られていない。

<葬儀すらできない>

詳細なデータもなく検査も行われていない状況では、高齢者介護施設での死亡例のうち、どの程度がCOVID-19によるものか、それとも季節的なインフルエンザや肺炎といった他の原因によるものかを正確に知ることは不可能である。

だが、高齢者介護施設は、病院において大半の重症患者が治療を受ける隔離された集中治療室とは条件が異なる。

現時点で、米国における新型コロナウィルスの感染拡大による死者が最も多いのはシアトル地域の介護施設であり、スペインではマドリードの検察当局が、患者グループの告発を受け、介護施設における17人の新型コロナウィルス関連死の捜査を進めている。

クレモナの介護施設従業員をまとめるCISL労組の現地担当者であるロベルト・デュシ氏は、アルツハイマー症などの疾患を抱える高齢者を他の患者と同じような形で治療することは、いずれにせよ不可能だ、と話す。

「アルツハイマー症のある人を入浴させる場合、自分の娘や息子と間違えて、こちらの身体に触れようとしたり、頭や顔を撫でようとしてくる」

「職員は、なぜ外に出られないのか理解できない人をなだめようとしている。『なぜ娘は会いに来てくれないのか。どうして誰も面会に来ないのか』と問われても、慰めるしかない」

家族にとっても、施設への来訪者が排除されるようになり、入所している親族に会って支援してやることもできないという現実があるため、いっそう辛さは募る。

2年前、キアラ・ジニさんの家族は、中程度のアルツハイマー症を抱えた81歳の伯母を「クレモナ・ソリダーレ」に入居させることを決めた。

「彼女は毎日、面会に来た自分の夫、つまり我々の伯父と昼食を共にしていた」とジニさんは言う。「彼女は毎日、私か彼女の兄弟、あるいは私の子どもたちの顔を見ていた」

来訪が禁止されたことで、面会は不可能になったが、少なくとも毎日電話することはできた。

「その後、伯母の体調が悪くなったために、電話でも話せなくなった。インフルエンザと言われていたが、看護師たちは患者の世話をするのに忙しく、家族からの電話を取ることさえできなかった」とジニさんは言う。

施設からジニさんの家族に連絡があり、伯母がインフルエンザに罹患したと告げられたのは、3月はじめ、施設への来訪が禁止されて約2週間後だった。そして先週、呼吸障害のため亡くなったという連絡が入った。

医療システムが限界に押しやられ、毎日数百人も出る死者により葬祭サービスも手一杯になっているため、遺体の検視や検査を行って新型コロナウィルスの感染を確認することもできない。

遺体は特別な防護用プラスチックバッグで包まれ、聖職者によって短い祈りが捧げられただけで、埋葬・火葬に付される。遺族が葬儀を行うには、集会規制が解除されるのを待たなければならない。

ジニさんは、「新型コロナウィルスの犠牲者は、愛する人々が周囲にいないままの生活を送り、その生涯を閉じていく。ちゃんとした葬儀もないままに」と語る。

(翻訳:エァクレーレン)

*記事の内容は執筆時の情報に基づいています。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中