ニュース速報

ワールド

焦点:感染源は野生動物か、それでも衰えぬ中国の「食欲」

2020年02月21日(金)11時44分

かごに入れられたハクビシン。広州市の市場で2003年10月撮影(2020年 ロイター/Kin

Farah Master Sophie Yu

[香港/北京 17日 ロイター] - 中国の警察はこの2週間、国内の住宅、飲食店、露天市場の取締りを続け、700人近くを逮捕した。容疑は何か。野生動物の捕獲・販売・食用に対する暫定的な禁止措置への違反である。

今回の取締りでは、リス、イタチ、イノシシなど約4万頭の野生動物が押収された。その消費規模の大きさは、食材・漢方薬材料として野生動物を消費する中国の習慣が、新型コロナウィルス感染との関連が疑われているにもかかわらず、簡単には消滅しそうにない可能性を示唆している。

認可を得てロバや犬、シカ、ワニ、その他の肉を販売している事業者は、市場が再開され次第、販売を再開する予定だとロイターに語った。

オンラインで野生動物の肉を販売し、内モンゴル自治区での実店舗も経営しているゴン・ジアン氏は、「禁止措置が解除され次第、販売を再開したい」と語った。「人々は野生動物の肉を買いたがっている。購入目的は自分で食べるため、あるいは誰かにプレゼントするため。贈答品に好適で、世間体がいいからだ」。

ゴン氏は、大型の冷凍庫でワニやシカの肉を保存しているが、育てているウズラはすべて殺さなければならないだろう、と話す。スーパーマーケットがウズラの卵を仕入れてくれなくなったが、卵を冷凍してしまえば食品としては使えないからだ。

科学者らは、新型コロナウィルスはコウモリからセンザンコウを介して人間に感染したのではないかと疑っている。センザンコウは蟻を餌とする小型の哺乳類で、その鱗は漢方薬として珍重されている。

新型コロナウィルスの初期の感染例は、武漢の海産物市場に出入りしていた人々のあいだで生じている。この市場では、コウモリや蛇、ジャコウネコなどの野生動物が販売されていた。中国は1月、こうした市場をすべて閉鎖し、野生動物を食べることが公衆衛生・安全性に対する脅威になると警告した。

だが、この国の文化と歴史に深く根付いた嗜好や態度を変えていくには、こうした措置だけでは十分ではないかもしれない。

中国科学院の元研究員(動物学)であるワン・ソン氏は、「多くの人々にとって、動物は人間のために生きているものであり、この地球で共生する存在とは見なされていない」と語る。

<ネットで白熱する議論>

新型コロナウィルスのアウトブレーク(感染拡大)によって、食用・医療用の野生動物利用をめぐる中国国内の議論が再燃している。こうした議論が過去に表面化したのは2003年にSARSが流行したときだ。科学者らは、SARSがジャコウネコを中間宿主としてコウモリから人に感染したと考えている。

野生動物の恒久的な取引禁止と、野生動物が販売されている市場の閉鎖を求める国際的な保護団体には、中国の多くの研究者、環境保護活動家、一般市民が参加している。

中国国内でのネット上での議論では、恒久的な禁止が圧倒的に支持されている。

中国のウェブサイト「Sina」上の時事討論フォーラムで、サンと名乗るコメント投稿者が、「何でも食べてみようというのは我が国の悪しき習慣だ」と書いている。「野生動物を食用にするのを止め、刑罰の対象にすべきだ」。

だが、中国には、少数派ではあっても、健康に良いと信じて野生動物を食べたがる人もいる。こうした人々からの需要があるからこそ、武漢などに見られる野生動物市場が存続し、大半が非合法であるオンライン販売サイトが成功しているのである。

中国のニュースサイト「Hupu」では、「傍観する暴君」を自称するコメント投稿者が、野生動物を食用するリスクには、それだけの価値があると主張する。「野生動物を食料として食べるのを止めるのは、喉に詰まってしまうかもしれないから食べるという行為を放棄するようなものだ」と書いている。

<政府の支援>

中国では、野生動物の繁殖・取引は政府による支援を受けており、多くの人々の収入源となっている。

SARSのアウトブレーク後、国家林業草原局は野生動物関連ビジネスの監督を強化し、ジャコウネコ、カメ、ワニなど54種類の野生動物の飼育・販売については合法的なライセンスを発給し、クマ、トラ、センザンコウといった絶滅危惧種については、環境保護・品種保全という観点から繁殖を認可している。

政府の後援により作成された2016年の報告によれば、こうした公式認可を得た野生動物の飼育は、年間約200億ドルの収益を上げているという。

動物福祉団体のヒューメイン・ソサエティ・インターナショナル(HSI)で中国の政策を専門に研究するピーター・リー氏は、「国家林業草原局は、以前からずっと、野生動物利用を支援する中心勢力だった」と語る。「同局は、中国には開発目的で野生動物資源を利用する権利があると主張してきた」。

野生動物の飼育・販売は、もっぱら貧困な農村地域において地元当局の承認のもとで行われている。国家の後援を受けたテレビ番組では、営利販売用や自家消費用にネズミを含む動物を飼育する人々の姿を日常的に伝えている。

だが、野生動物取引の恒久的禁止を主張する活動家らによれば、ライセンスを受けた飼育事業は、野生動物の違法取引の隠れ蓑になっている、と非難する。こうした飼育事業では、動物を自然環境に戻すのではなく、食品・医薬品として消費する目的で繁殖が行われている、と彼らは指摘する。

中国生物多様性保全・グリーン開発基金を率いるジョー・ジンフェン氏は、「この施設は違法取引のためだけに利用されている」とロイターに語った。「センザンコウ飼育農場など中国には存在しない。違法な活動のためにライセンスを利用しているだけだ」。

<合法/違法の区別は曖昧>

中国伝統の漢方薬の一部では、「熊の胆」からセンザンコウの鱗に至るまで、野生動物由来の成分が今も使われている。中国は、この産業を「一帯一路」構想の一環として成長させたいと考えている。

だが、合法/違法の区別は曖昧だ。国連では、野生動物の違法取引は、世界全体で年間約230億ドル規模に達すると推測している。環境保護団体によれば、市場として圧倒的に規模が大きいのは中国だという。

「環境乱用」に反対するキャンペーンを展開するロンドンの独立組織「環境調査エージェンシー」(EIA)は、今週発表したレポートのなかで、新型コロナウィルスのアウトブレークは、実は野生動物の違法取引の一部をさらに加速させていると述べている。中国、ラオスの取引業者らが、解熱剤としてサイの角を成分とする漢方薬を売っているからだ。

国営・新華社通信は今週、今年の全国人民代表大会(全人代)において、野生動物の密売を取り締まる法律が厳格化される見込みと報じた。

中国東部の内陸に位置する安徽省で野生動物の卸売事業を営むシアン・チェンチュアン氏は、「我々がやっているのは斜陽産業だ」と言う。

シアン氏は、裕福な銀行関係者などを顧客として、シカの角や犬、ロバ、クジャクの肉を贈答品として販売しているが、禁止措置が継続されるかどうか見極めるため、在庫の肉は冷凍したと話す。

「政策で認められれば販売を再開するつもりだが、どれくらいこれ(禁止措置)が続くのか、今のところ見当もつかない」。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中