ニュース速報

ワールド

米、ブラジルとアルゼンチンに鉄鋼関税 大統領「通貨安に対抗」

2019年12月03日(火)10時11分

トランプ米大統領は2日、ブラジルとアルゼンチンから輸入する鉄鋼とアルミニウムに直ちに関税を課すと表明した。メリーランド州のアンドルーズ空軍基地で撮影(2019年 ロイター/KEVIN LAMARQUE)

[ワシントン/リオデジャネイロ 2日 ロイター] - トランプ米大統領は2日、ブラジルとアルゼンチンから輸入する鉄鋼とアルミニウムに直ちに関税を課すと表明した。両国の意図的な通貨切り下げで米農業部門が圧迫されているとの考えから報復措置を打ち出したものとみられる。

トランプ大統領は早朝、ツイッターに「ブラジルとアルゼンチンは大規模な通貨切り下げを実施してきた。これは米国の農業部門に良くない。このため、両国から米国に輸出される鉄鋼とアルミニウムに直ちに関税を課す」と投稿した。これ以上の情報は明らかにしなかった。

ただ事実は逆で、ブラジルとアルゼンチン両国はともに、自国通貨を対ドルで上昇させようと積極的に動いてきた。アナリストらはトランプ大統領の決定の発端が中国との貿易戦争を巡る国内政治状況にあるのではないかとみている。

2020年11月の米大統領選を巡り、トランプ大統領にとって国内農家はカギとなる票田。米中貿易戦争で米農産品の競争力が削がれ、ブラジルとアルゼンチンの農産品を利していることが背景となっている可能性もある。

マーティン・カリーの投資戦略部門責任者、キム・カテキス氏は「多くのブラジル人にとって、これはブラジル大豆農家の大儲けに対する腹いせのにおいがする。米中貿易戦争では、中国向け米国産大豆の代替となることでブラジルの大豆農家は大きな利益を得ている」と述べた。

この件に関して米国務省、および米通商代表部(USTR)担当者からコメントは得られていない。

ブラジルのボルソナロ大統領はトランプ氏と直接協議する意向を表明。現地ラジオ局のインタビューで「報復措置とは考えていない」と指摘。「米経済はわれわれの経済と同規模ではなく、何倍も大きい」とし、「関税を課さないようトランプ氏に電話するつもりだ。ブラジル経済は基本的にコモディティーで成り立っている。トランプ氏が理解してくれることを望む。われわれの主張を聞いてくれると確信している」と述べた。

アルゼンチンのシカ生産・労働相はトランプ氏の発表について「予想外」だったと表明。午前中に米国の措置への対応を協議したとし、より詳細な情報を得るために米国のロス商務長官との会談を望んでいると述べた。また、外務省も米国務省との交渉を始めると明かした。

シカ生産相によると、アルゼンチンが今年米国に輸出した鉄鋼・アルミニウムはこれまでに金額ベースで約7億ドル。

<トランプ氏の主張に懐疑論>

ブラジルとアルゼンチンの通貨が人為的に切り下げられているとのトランプ大統領の主張には懐疑的な声も聞かれる。

ブラジル中央銀行のカンポス・ネト総裁は、通貨レアルは変動相場制の通貨であり、中銀は相場のターゲットを設定していないと指摘。サンパウロでの講演で、レアルの最近の下落は大型の投資家を引き付けられなかった油田入札への失望に関連しているとした。アルゼンチンは苦境にある通貨ペソの安定に向け通貨管理を導入した。

ブラジルのボルソナロ大統領の報道官を務めるオタビオ・バロス氏は、通貨について協議するため米当局者と連絡を取ると語った。

トランプ大統領はこのほか「連邦準備理事会(FRB)は多くの国がドル高をうまく利用することを防ぐために行動を起こす必要がある」と投稿。FRBに対し他の国が通貨切り下げを通して経済的な利益を得ることを防止するよう呼び掛け、「FRBは金利を引き下げ、(政策を)緩和する必要がある!」と投稿した。FRBは10─11日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。

ブラジルの鉄鋼ロビー団体、Instituto Aco Brasilは声明で、レアルは自由変動通貨であるため、ブラジル政府はレアル相場を操作できないと指摘。「米国の農業部門の『損失を補填する』手段としてブラジルの鉄鋼に関税を掛けることは、ブラジルに対する報復措置である」とし、「このような決定で結局は米国の製鉄業界が打撃を受ける」とした。

*内容を追加しました。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ファーウェイ、チップ製造・コンピューティングパワー

ビジネス

中国がグーグルへの独禁法調査打ち切り、FT報道

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中