ニュース速報

ワールド

アングル:混乱のレバノン、大規模デモと経済危機の背景とは

2019年11月10日(日)08時32分

 11月6日、レバノンは10月半ばから、首都ベイルートその他の都市で反政府デモによる混乱が広がり、サード・ハリリ首相が辞意を表明する事態となった。写真はベイルートでのデモ(2019年 ロイター/Andres Martinez Casares)

[ベイルート 6日 ロイター] - レバノンは10月半ばから、首都ベイルートその他の都市で反政府デモによる混乱が広がり、サード・ハリリ首相が辞意を表明する事態となった。既に危機に陥っていた経済への信頼感は揺らいでいる。

デモ参加者の怒りは、1975─90年の内戦以来、国を支配している宗派主義の政治家の腐敗に向けられている。

<経済圧迫する巨大債務>

レバノンはほとんど輸出せず、輸入に多くを頼っている。非効率性、浪費、汚職が原因で債務負担は世界最悪のレベルだ。

10年前は年8─9%の成長を続けていたが、シリア内戦や中東全域の混乱、海外からの資本流入の減少などにより急減速。ここ数年1─2%で推移した後、今年はゼロ成長に落ち込んだ。

国内総生産(GDP)が550億ドルなのに対し、国家債務はその約150%の850億ドルに達している。

外貨調達源が少ないレバノンは、海外移住者からの国内送金により輸入代金や財政赤字の穴埋めを続けてきた。しかし金利が上昇を続けているにもかかわらず、そうした資金環流は減速。ドルが不足し、レバノンポンドはここ数カ月間に出来上がった闇市場で下落している。ポンド安は物価上昇につながり始めた。

財政支出の大半は、債務返済と肥大化した官公庁の経費によって吸い取られている。

インフラはお粗末で、毎日のように停電が起こり、コストの高い民間発電によってその穴を埋めている。国有の携帯電話事業者は料金が高い。

35歳未満の失業率は37%。何年も前から赤字抑制のための改革が叫ばれているが、政府は手をこまねいている。

<宗派優先の腐敗政治>

反政府デモの参加者らは、政治エリート層が商売と政治を結ぶ恩顧主義の網を通じ、国家資源を使って私腹を肥やしていると批判している。

1人の統治者が強権を振るう多くのアラブ諸国と異なり、レバノンは多様な宗派を代表する多くの指導者や政党が混在している。

政治ポストは公認の18宗派に対する割り当て制。国民議会はキリスト教徒とイスラム教徒が半々、首相はイスラム教スンニ派、大統領はキリスト教マロン派、国民議会議長はイスラム教シーア派と定められている。

この制度が権力における階級制を恒久化し、国家よりも自らの利益を優先する政治家の行動を可能にしているというのが、デモ参加者らの主張だ。参加者らはエリート層の排除だけでなく、制度そのものの改革を求めている。

レバノンは分断した政治体制ゆえに外国からの干渉を受けやすく、そのことが長年にわたり国内の危機をあおってきた。

シリア軍がレバノンから撤退した2005年以来、同国の政治紛争の多くはイランが後押しするシーア派組織ヒズボラと、米国および湾岸アラブ諸国連合が支援する勢力との対立を反映したものとなっている。

<暗黒時代への回帰の恐れ>

デモ参加者の指導者は存在せず、要求内容は多岐にわたり、それらに答えるのは容易ではない。ハリリ氏が最初に出した対策案はあっさり却下された。

ハリリ氏など指導者らは現在、密室で新政府の樹立について協議している。新内閣メンバーの少なくとも一部を、国民の信頼を得て改革を遂行できる実務家とするのが1案だ。

しかしハリリ氏が辞意を表明して1週間を経ても事態打開の糸口は見えない。現在の連立政権を樹立する際にも9カ月の協議を要した。

デモ参加者は政府の抜本的な改革を求めており、旧閣僚が1人でも残留すれば失望を誘うだろう。デモが続き、混乱が長引く恐れが指摘されている。

レバノンポンドが大幅に切り下げられるなど、経済危機が深刻化するようなら、社会の混乱にも拍車がかかりそうだ。30年前の内戦時のような暗黒時代への回帰を恐れる声も聞かれる。

より穏健なシナリオとしては、新内閣が速やかに組成され、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビア、あるいはカタールなどから金銭的支援を得られる可能性が考えられる。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

ニュース速報

ワールド

クウェート、前首長の葬儀は一般非公開で カタール首

ワールド

英で新型コロナ第2波加速、首相が国民に規制遵守求め

ワールド

プラウド・ボーイズは「知らない」、法執行当局に仕事

ワールド

混迷の米大統領選討論会、秩序維持へ対応策 運営側が

MAGAZINE

特集:感染症 vs 国家

2020-10・ 6号(9/29発売)

新型コロナウイルスに最も正しく対応した国は? 各国の感染拡大防止策を徹底査定する

人気ランキング

  • 1

    新型コロナは「中国病」どころかアメリカ病だ

  • 2

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立し大炎上に

  • 3

    「お疲れさまでした」1人の中国人から、安倍前首相へ

  • 4

    韓国ネットに新たな闇 犯罪者を晒す「デジタル刑務所…

  • 5

    北朝鮮の韓国乗組員射殺で「終戦宣言を」の文在寅に…

  • 6

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに…

  • 7

    感染者数・死者数を抑えた国、失敗した国 14カ国の…

  • 8

    安倍政権が推進した「オールジャパン鉄道輸出」の悲惨…

  • 9

    台湾の都市名に添えられた「中国」表記、EUの支援で「中…

  • 10

    トランプ巨額脱税疑惑、スキャンダルの本丸はその先…

  • 1

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立し大炎上に

  • 2

    中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態

  • 3

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに動画が拡散

  • 4

    尖閣問題への米軍介入で中国軍との戦闘は不可避──仮…

  • 5

    中国の台湾侵攻に備える米軍の「台湾駐屯」は賢明か 

  • 6

    北朝鮮の韓国乗組員射殺で「終戦宣言を」の文在寅に…

  • 7

    新型コロナは「中国病」どころかアメリカ病だ

  • 8

    核武装しても不安......金正恩が日本の「敵基地攻撃…

  • 9

    美貌の女性解説員を破滅させた、金正恩「拷問部隊」…

  • 10

    トランプはなぜ懲りずに兵士の侮辱を繰り返すのか(…

  • 1

    安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッポン

  • 2

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる模擬攻撃の動画公開

  • 3

    【動画】タランチュラが鳥を頭から食べる衝撃映像とメカニズム

  • 4

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船…

  • 5

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立…

  • 6

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに…

  • 7

    中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿…

  • 8

    米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

  • 9

    尖閣問題への米軍介入で中国軍との戦闘は不可避──仮…

  • 10

    アラスカ漁船がロシア艦隊と鉢合わせ、米軍機がロシ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!