ニュース速報

ワールド

米、指導者死亡受けIS掃討強化の構え 急襲作戦の映像一部公開も

2019年10月29日(火)10時45分

 10月28日、米国務省の高官は、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者バグダディ容疑者が米軍の急襲作戦によりシリアで死亡したことを受け、米政府は有志国連合によるIS掃討作戦の強化を望んでいると表明した。27日の会見で撮影(2019年 ロイター/JOSHUA ROBERTS)

[ワシントン/モスクワ 28日 ロイター] - 米国務省の高官は28日、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者バグダディ容疑者が米軍の急襲作戦によりシリアで死亡したことを受け、米政府は有志国連合によるIS掃討作戦の強化を望んでいると表明した。

高官は、トランプ大統領は今月6日にシリア北部からの米軍撤収を発表したが、IS掃討の任務を放棄するという意味はなかったとした。「これは重要な取り組みで、継続している」と語った。

IS掃討作戦に関し、関係国の外相はワシントンで11月14日に会合を開く。

米国務省は「シリアとイラクでISが勢力を盛り返すのを阻止する決意で、有志国連合とともにISの残党を壊滅させ、ISの世界での野心を打ち砕く」との声明を出した。ワシントンでの会合ではシリア北東部の最近の情勢が主に話し合われるとした。

<急襲映像を一部公開も>

トランプ米大統領は同日、バグダディ容疑者の死亡につながった急襲作戦の映像について、一部公開する可能性を示唆した。空中からの映像や兵士らに取り付けたカメラの撮影内容が含まれるもよう。

トランプ氏は記者団に対し「(映像公開については)検討中だ。一部映像を公開するかもしれない」と語った。ある米当局者は、米軍の戦術などが判明しないよう、映像を修正する必要があるとした。

一方、バグダディ容疑者が海に水葬されたことが、3人の米政府当局者らの話で明らかになった。イスラム教の慣習にのっとった葬儀が行われたという。

当局者らは葬儀の場所やどれだけの時間を要したかなどの詳細は伏せた。このうち2人は、遺体は航空機から海に運ばれたようだと述べた。

米軍のミリー統合参謀本部議長は米国防総省で28日に行われた記者会見で、米軍はバグダディ容疑者の遺体を標準的な手順や武力紛争の法律に従って「適切に」処置したと語った。

ただ、バグダディ容疑者が自爆して死亡したことなどを踏まえると、今回の葬送の手順は、2011年に米海軍特殊部隊シールズに射殺された国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディン容疑者が海に水葬された時ほど完全なものではないとみられる。ビンラディン容疑者の遺体は葬儀のために原子力空母「カール・ビンソン」に運ばれ、洗浄され白い布に包まれ、アラビア語に通訳された宗教的な言葉が唱えられた上で海に流された。

トランプ氏は27日、テレビ演説でバグダディ容疑者の死亡を発表。急襲を受けトンネルに逃げ込んだ容疑者を「(米軍の)軍用犬がトンネルの行き止まりに追い詰め、そこで彼がベストを爆破させ、3人の子供とともに死亡した」と述べた。その後現場でDNA検査を行い、本人と確認されたという。

バグダディ容疑者についてトランプ氏は「下劣で狂った人間だった。でもこの世にはもういない。哀れに泣き叫んで死んでいった」と述べた。

<ISの脅威残ると各国指摘>

ロシア大統領府のペスコフ報道官は、米国から急襲作戦について事前通知があったかどうかについて回答を避けた。トランプ氏はバグダディ容疑者の死亡を発表した際、ロシアが自国の領空を開放するなど「素晴らしい扱いをわれわれは受けた」と述べていた。

マクロン仏大統領は、バグダディ容疑者の死はISにとって大きな打撃だが、「このテロ組織を打ち負かすための闘いは継続している」と語った。

ジョンソン英首相は「ISの殺人的で野蛮な活動を決定的に終わらせるため、有志連合パートナーと協力する」と述べた。

米政府はこの日、シリア北部での別の作戦で、ISの報道担当者アブ・アル・ハッサン・アル・ムハジル氏を殺害したと確認した。

フィリピンのロレンザーナ国防相は、バグダディ容疑者の死亡はISにとって打撃になるとする一方、ISの世界的な影響を考えれば、打撃は一時的なものに過ぎないと指摘。「誰かがバグダディ容疑者に取って代わるだろう」と警告した。オーストラリアのモリソン首相も「ISはいくつもの頭を持つお化けのようなもの。一つ切り落としても他の頭が確実に浮かび上がってくる」とした。

トルコのチャブシオール外相は、米軍がバグダディ容疑者に対する急襲作戦を展開した夜、米・トルコ政府が緊密に連絡を取り、情報を共有していたと明らかにした。

外相は記者会見で「IS指導者殺害に向けた急襲作戦に先立ち、トルコと米政府は情報を共有し、意見を交換していた。トランプ大統領がトルコに謝意を示したのはそのためだ」と語った。トルコがこれまでにIS兵士4000人超を制圧したとも述べた。

バグダディ容疑者の消息を巡っては、これまで長年その行方を追っていたイラク情報当局が昨年2月に居場所の特定につながる有力な情報を得ていたことが、イラクの安全保障当局者2人の話で判明した。

<シリアの油田も焦点に>

エスパー米国防長官は28日、米国が支援しているシリアの武装勢力「シリア民主軍(SDF)」から収入源の油田を奪おうとする動きがあれば、ISであれ、ロシアやシリアが支援する勢力であれ、米軍は「圧倒的な力」で阻止するとの考えを示した。

ただ、トランプ氏は、今回の急襲作戦によってシリア北部から米軍を撤収する方針が変わることはないと表明した。

※情報を追加しました。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米とウクライナ、和平案を「更新・改良」 協議継続へ

ビジネス

FRBの金融政策は適切、12月利下げに慎重=ボスト

ビジネス

米経済全体の景気後退リスクない、政府閉鎖で110億

ワールド

アングル:労災被害者の韓国大統領、産業現場での事故
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中