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アングル:トランプ氏就任1年、ロシアが味わう「幻滅感」

2018年01月27日(土)09時03分

 1月19日、1年前にトランプ大統領(写真右)の就任を祝って浮かれ騒いだロシアのナショナリストたちの高揚は落胆へと変わった。写真はロシアのテレビ局RTを率いるマルガリータ・シモニャン氏。2016年、モスクワで撮影(2018年 ロイター/Maxim Shemetov)

Andrew Osborn

[モスクワ 19日 ロイター] - 1年前の土曜日、ロシアのナショナリストたちはモスクワ中心部で浮かれ騒いでいた。ドナルド・トランプ氏の第45代米大統領就任を祝うためだ。

その高揚は落胆へと変わった。ロシアに対する制裁を解除してくれると期待した新大統領が、気が進まないながらも制裁を強化する一方で、ロシア政府は否定しているが、米大統領選挙におけるロシア介入疑惑によって米ロ両国の政治関係は損なわれている。

ロシアでは、長年にわたり熱心な反ロシア派とみられてきたヒラリー・クリントン民主党候補が大統領に当選していた方がマシだった、という声さえ上がっている。

「クリントン政権であれば、少なくとも軍縮分野において、ある程度の接触や対話を維持することができただろう。今やそれもすべて失われてしまった」。外交政策におけるロシア政府の諮問機関アメリカ・カナダ研究所(モスクワ)のバレリー・ガルブゾフ所長はそう語る。

当選前までのトランプ氏は米ロ関係改善の願いを口にし、ロシアのプーチン大統領を称賛することで、ロシア当局者を喜ばせていた。バラク前政権の下で両国関係は冷戦終結以降で最悪の状態にあったからだ。

ロシア下院ではトランプ氏当選のニュースが拍手で迎えられ、政府が支援するテレビ局「RT」を率いるマルガリータ・シモニャン氏は、「星条旗を掲げてモスクワ市内をドライブしたい気分だ」と発言した。

だがシモニャン氏はこのところ、米当局が彼女のテレビ局を「外国の工作機関」と名指ししたことで、米国における言論の自由が損なわれている、という批判に時間を費やしている。

モスクワにある旧ソ連時代の郵便局跡で行われたロシア人によるトランプ氏就任祝賀パーティを中継した右派テレビ局「Tsargrad」は今週、トランプ大統領が北朝鮮問題を巡りロシアを批判しているのは、国内問題から関心をそらせるためだ、と非難した。

米議会がトランプ大統領とロシアの共謀容疑について捜査を続け、トランプ政権が議会からの対ロシア制裁強化を求める声に対応するなかで、ロシア政府のフラストレーションは明らかに高まっている。

昨年プーチン大統領は2度トランプ大統領に会ったが、米ロ首脳会談の計画については何も知らないとロシア当局者は言う。ロシア政府は11月に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に、米ロ首脳会談の場を設けようとしたが、失敗に終わった。

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、2017年に最も失望したことの1つとして米ロ関係を挙げている。

米財務省は今月、プーチン大統領や当局と関係の深いロシアの富裕層を名指しする報告書を発表する予定だ。これが、制裁対象の個人や団体を拡大する前兆になるのではないかと、ロシア当局は危惧している。

今年中に米国政府は少なくともあと6件の報告書を発表する予定であり、結果として、ロシアのエネルギーや金融部門、メディアに対する新たな措置につながる恐れがあり、ロシア国債の購入禁止にまで至る可能性がある、とロシア当局者は予想している。

「米国の制裁は、ロシアが高リスク資産による資金調達をせざるを得なくすることにより、ロシア市場に参入する投資家が、これまでの10倍慎重になる効果を狙っている」。ロシア外務省と関係の深いシンクタンク、ロシア国際問題評議会(RIAC)で制裁問題を専門とするイワン・ティモフィエフ氏はそう指摘する。

ティモフィエフ氏は、新たな制裁に対するロシアの対策は「きわめて限定的」だと語る。

<オバマ前政権時代より関係悪化>

米ロ関係の悪化についてプーチン大統領は平静を装っており、12月の定例記者会見では、トランプ大統領による経済面での成果を称賛しつつ、米ロ関係はいずれ好転するとの考えを示した。

だがロシア当局者は、トランプ大統領が口にする米ロ関係改善への希望は本心からのものだと信じるものの、ロシア政策という点でトランプ氏は大統領としていわゆる「レームダック(死に体)」状態にあり、国内の政敵によって無力化されていると見ている。

結果として、ある意味で、オバマ政権時代よりも実質的に米ロ関係は悪化しており、高官レベルの接触も事実上行われていない、と彼らは不満を口にする。

「残念ながら、選挙期間中のトランプ氏の発言とは異なり、現政権の行動はオバマ政権の延長線上にある。分野によっては前政権よりもさらに攻撃的になっている」。ロシアのラブロフ外相は今月行われた年頭の定例記者会見でそう語った。

トランプ、プーチン両大統領は関係改善の希望を口にするだろうが、両国関係は、冷戦期に見られた緊張緩和のためのコミュニケーション経路もないままに、悪化の一途をたどっているという。

ロシアはトランプ政権に対し、オバマ政権時代に米当局が差し押さえたロシア外務省関係の資産2件を返還するよう求めているが、何の成果も得られていない。報復として、ロシア政府は国内にある米国資産の差押えに踏み切った。プーチン大統領は昨年、在ロシア米国大使館に対し、職員数を半減するよう命じている。

トランプ政権はウクライナ問題に関してもオバマ政権以上にロシアに対する圧力を強めており、ウクライナ東部における親ロシア派分離独立主義グループとの戦闘から抜け出せないウクライナ政府に対し、新規の武器供与を承認している。

トランプ政権はロシアを、米国の覇権に挑戦する「修正主義者(リビジョニスト)」と位置付けている。

ロシア政府は「クリントン氏でなければ誰でもいい」という願望で目がくらんでしまった、とRIACを率いるアンドレイ・コルチュノフ氏は語る。共和党政権の方が民主党政権よりも協力しやすく、トランプ氏の世界観にはロシア側と重なる部分がある、と思い込んでしまった。

「(ロシア政府に)警告した」とコルチュノフ氏は言う。

ゾフガルブゾフ所長は、ロシアのエリート層は、ロシアのように米国の政治制度においても大統領権限に対する制約はほとんどないものと勘違いしていたと言う。今となっては、できる範囲で協力することでダメージを最小限にとどめるくらいしかできることはない、と同所長は悲観する。

「トランプ大統領が(対ロ関係改善に向けて)何でもできるわけではない」と同所長は語る。「漠然と関係改善が望ましいとは言っていたが、どうすればそれを実現できるかはまったく分かっていなかった」

(翻訳:エァクレーレン)

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