アングル:自民圧勝でも円売り不発、「対話」発言におびえる市場
写真は日本円と米ドルの紙幣。2022年6月撮影。REUTERS/Florence Lo
Atsuko Aoyama
[東京 9日 ロイター] - 衆院選で市場が想定した以上の自民党圧勝を受けた週明けの東京市場では、ドル/円の急騰シナリオは不発となった。複数の当局者が繰り返した「市場との対話」発言が、直近のレートチェック観測に伴う急落の記憶を想起させ、円売りを手掛けにくくさせたことが背景の一つとみられる。ただ、市場の恐怖心が薄れれば、円は再び下値を試す展開になりやすいとの見方は根強い。
「市場とは常に対話している」と、自民党の大勝後に三村淳財務官が発した言葉が、この日の東京市場で話題になった。ある国内銀行の為替ディーラーは「対話とは何なのか、市場の猜疑心を呼んだ」と話す。
自民党の大勝は為替市場である程度、織り込み済みだった。とはいえ、単独での3分の2超の議席数は「想定以上」(野村証券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗氏)でもあり、円売りが加速してもおかしくない状況だった。
日経平均が一時3000円を超える上昇をみせた裏側で、ドル/円は伸び悩んだ。朝方から157円台と156円台のレンジを軸とする神経質な値動きが続き、前週末から一時約1円のドル安/円高水準となる156円前半に下落した。
選挙当日には片山さつき財務相が、必要なら9日も市場との「コミュニケーション」を取る可能性に言及。きょうは三村財務官の発言後、木原稔官房長官も市場と「しっかり対話」する意向を示した。
前述の国内銀為替ディーラーは、これが円安けん制の意図を含むなら「1人でなく複数人が同じワードを時間差で発しており、深い意味があるのかと思わせられる巧妙さ」があると指摘する。
<「対話」とはレートチェックか介入か>
「対話」のワードで市場関係者の脳裏をよぎったのは、1月に7円ものドル/円急落を誘引した日米でのレートチェック観測だ。「対話」がどこまでの範囲を示すのかがあいまいなことも、市場の恐怖心を呼んでいる面がある。
前夜の片山財務相の「コミュニケーション」の意味合いについて「レートチェックや口先介入が含まれる可能性もある」と野村証券の後藤氏はみている。
口先介入やレートチェックにとどまらず、為替介入にしても「これ以上(の変動)は認めないという強いメッセージを発している点では対話」に含まれるのではないかとニッセイ基礎研究所の上野剛志・主席エコノミストはみている。「そうしたあいまいさが、不気味さを醸し出している」と上野氏は話す。
自民党は圧勝を経て、より拡張的な財政政策を主張する野党の顔色をうかがう必要がなくなり、市場では「財政不安に対する警戒感が後退する」(りそなホールディングスの井口慶一シニアストラテジスト)との見方も広がった。これが投機的な円売りをいったん手じまいに向かわせたともみられている。
ただ、円売り、債券売り要因の「本丸」とみられている消費減税は、今後の実現可能性に向けた議論の進展を見極める局面にあり、懸念が払しょくされたわけでもなく、新たな円買い材料に乏しい状況にも変わりはない。
ドル/円は160円を上値めどとして当局の動きを警戒しながら「じりじり上値を試すのではないか」(野村証の後藤氏)との見方は依然、根強い。





