アングル:半導体株が復調、実需に強さ ディープシークのトラウマ覆す

東京株式市場で半導体関連株に復調の兆しがみられる。2023年2月撮影のイメージ写真(2025年 ロイター/Florence Lo/Illustration)
Hiroko Hamada
[東京 24日 ロイター] - 東京株式市場で半導体関連株に復調の兆しがみられる。米ハイテク企業の人工知能(AI)関連投資が引き続き高水準で推移するとみられていることが背景にある。半導体検査装置大手のアドバンテストは年初来高値に迫る勢いで、年初に相場を揺るがした中国発の「ディープシーク」ショックのトラウマを覆すような動きとなっている。
<AI投資の流れは不変>
中国の新興企業ディープシークが低コストのAIモデルを公表、データセンター投資が過剰ではないかとの懸念が広がり、半導体株は年初に大幅下落した。しかし、米半導体大手エヌビディアの株価がここにきてディープシークショック前の水準を回復。市場では「巨額のAI投資に疑心暗鬼だったムードは完全に後退した」(三菱UFJeスマート証券のチーフストラテジスト・河合達憲氏)との声が聞かれる。
世界半導体市場統計(WSTS)は3日、2025年の半導体市場について前年比11.2%のプラスと2桁成長の維持を見込んでいると発表した。米国半導体工業会(SIA)が5日発表した4月の世界半導体販売額は前年同月比22.7%増の570億米ドルで、需要拡大の実績が確認されている。
数字の裏付けを得て、市場は米大手ハイテク企業によるAI関連の投資増加の流れは変わっていないと判断。足元では関連株に「買い安心感がある」(立花証券の調査部アナリスト・大牧実慶氏)という。
実際、アドバンテストの株価はディープシークショック以降18%超上昇。NAND型フラッシュメモリーに強いキオクシアホールディングスは同49%高と、この間の日経平均のパフォーマンスを上回る大幅な上昇となっている。
●主要な半導体関連銘柄の株価パフォーマンス
企業 年初来 ディープシークショック後
6857.T アドバンテスト 5.56% 18.96%
8035.T 東京エレクトロン -1.98% -2.54%
6920.T レーザーテック 6.68% 8.00%
6146.T ディスコ -15.49% -20.16%
285A キオクシアHD 55.73% 49%
6723.T ルネサスエレクトロニクス -4.44% -4.30%
6526.T ソシオネクスト 9.80% 15.19%
4062.T イビデン 22.09% 25.53%
6525.T KOKUSAI ELECTRIC 50.11% 48.38%
6504.T 富士電機 -26.50% -16.84%
6963.T ローム 19.52% 16.12%
6503.T 三菱電機 10.60% 14.72%
7735.T SCREENホールディングス 11.85% 4.01%
.N225 日経平均 -3.86% -1.69%
(6月23日終値時点。LSEGのデータを元に作成)
<株価回復にばらつきも>
WSTSはAI需要の高まりを受け、データセンター投資継続の恩恵を受けるメモリーやロジック製品の高成長が半導体市場をけん引するとしている。
国内の半導体チップメーカーでロジックに強みを持つ企業は限られるが、メモリーに強いキオクシアのほか、半導体製造装置など関連企業の業績押し上げへの期待につながっている。「米国を中心にAI投資が進む中で、半導体製造装置、テスター分野などの関連銘柄が買い戻されている」とオムディア・シニアディレクターの南川明氏は話す。
先のトランプ米大統領の中東歴訪時には、アラブ首長国連邦(UAE)と米国がUAEの首都アブダビに米国外で最大のAIキャンパスを建設する協定に署名したことが伝わった。UAEは今年からエヌビディアの最先端AI半導体を年間50万個輸入できる可能性があるとの報道もあった。
米半導体大手エヌビディアや、エヌビディアが設計する半導体の製造を手掛ける台湾積体電路製造(TSMC)などの業績が好調な点も、国内の関連銘柄の支えとなっている。
ただ、東京エレクトロンやディスコは、ディープシークショック後の戻りが鈍く、関連銘柄間で濃淡がみられる。岩井コスモ証券のアナリスト、斎藤和嘉氏は東エレクに関して「米国の対中規制の絡みで一番に影響を受けるのは製造装置の分野で、他の銘柄と比べてパフォーマンスが劣後しているのではないか」との見方を示している。
<リスクは米中対立>
アドバンテストのPER(株価収益率)は足元39倍台後半と高水準に見える。それでも、岩井コスモ証券の斎藤氏は「成長期待が戻ってきているため、PER40―50倍程度ならマーケットは受け入れるのではないか」と強気な見方を示す。「ディープシークショックが起きた半年前に比べて、足元ではAIの再評価が進んでおり、割高感は小さい」(斎藤氏)との見立てだ。
リスクとして意識されるのは、足元で一服している米中対立が改めて先鋭化することだ。半導体輸出規制に目が向かう場合には注意が必要だと東海東京インテリジェンス・ラボのシニアアナリスト、澤田遼太郎氏は指摘する。「足元で買い戻されているため、利益確定売りの口実になりかねない」という。
とはいえ、トランプ関税の不透明要因がある中でも、足元でAI投資の中心地となる米国の経済は底堅い。そのことが、米大手ハイテク企業の投資継続への思惑につながるとオムディアの南川氏はみており「(株価は)上下動を繰り返しつつも、買い戻しは継続するのではないか」と話している。