焦点:実質賃金プラスに逆風、円安再加速なら後ずれも 危うい好循環実現
実質賃金のプラス転換に逆風が吹いている。円安懸念は根深く、再加速すれば物価をさらに押し上げかねない。写真は2015年3月、都内で撮影(2024年 ロイター/Yuya Shino)
Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama
[東京 16日 ロイター] - 実質賃金のプラス転換に逆風が吹いている。円安懸念は根深く、再加速すれば物価をさらに押し上げかねない。プラス転換は後ずれ含みとの指摘も出ており、家計が潤い、消費が増え、さらなる賃上げにつなげる好循環実現までの曲折は避けられそうにない。
<募る危機感、首相あらわ>
「最近の円安の動きを十分注視しており、政府、日銀は引き続き密接に連携していく」。岸田文雄首相は13日の政府与党連絡会議でこう述べ、為替相場への警戒感をあらわにした。
政府与党連絡会議に先立つ7日には、日銀の植田和男総裁と官邸で会談。植田総裁は会談後、「最近の円安について日銀の政策運営上、十分注視していくことを確認させていただいた」と記者団に語った。
危機感を募らせる背景には、急ピッチな円安進行がある。
円相場は4月29日に一時1ドル=160円を突破し、年初からの変動率が14%を超えた。実施したかどうか明らかにしない「覆面介入」とみられる動きを挟み、150円台前半まで戻す場面もあったが、今なお円安圧力にさらされる状況に変わりない。
円安進行に伴う経済影響について、プラス・マイナス両面あると位置付けてきた政府内からは、「ネガティブな影響が大きい水準」(官邸に近い関係者)との声も漏れる。
<170円で狂うシナリオ>
市場では、早ければ今夏の実質賃金プラスを期待する声が広がっている。もっとも円安が続けば輸入物価上昇を要因とするコストプッシュ型インフレが再燃し、家計の所得環境を悪化させかねない。30年ぶりの賃上げ率を受けて「好循環実現のチャンス」と繰り返し発信してきた政権にとっても痛手となる。
内閣府の短期日本経済マクロ計量モデルによると、為替が10%円安に振れた場合、消費者物価が1年間で0.2%程度押し上げられる。
明治安田総合研究所の吉川裕也エコノミストの試算では、1ドル=160円までなら、8月にも実質賃金が小幅ながらプラスに転じる。
一方、170円まで円安が進めば「年内いっぱいは安定的な実質賃金のプラス推移は見込めない」と、同氏は語る。
<失速なら追加策求める声>
2024年4―6月期の実質国内総生産(GDP)は、この日発表された24年1―3月期のマイナス成長から一転、プラスを回復するとみられている。
「24年春闘の結果を受けて名目賃金の伸びが高まる中、(6月に予定される)所得・住民減税による可処分所得の押し上げ効果もあり、年率2%程度のプラス成長になる」と、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長はみている。
「民間消費が5四半期ぶりに増加し、高水準の企業収益を背景に設備投資が増加に転じそうだ」と、斎藤氏は言う。
とはいえ、先行きは電気・ガス代の負担軽減策が打ち切られ、年数万円単位の新たな負担を抱えるとの試算もある。政府は、賃上げと定額減税の効果で夏以降も消費を支える構えだが、不透明感は拭えない。
円安の影響は約半年後の消費者物価に表れるとされ、秋の自民総裁選に先立つ失速懸念の強まりは、追加策を求める声に発展しそうだ。