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アングル:米国債市場が告げる転機、「高圧経済」到来で高まる不確実性

2023年10月03日(火)18時15分

 10月2日、 米国債市場が時代の転機を告げつつある。写真はワシントンのFRB本部で2008年3月撮影(2023年 ロイター/Jason Reed)

Paritosh Bansal

[2日 ロイター] - 米国債市場が時代の転機を告げつつある。2008年の世界金融危機から始まった低金利と低インフレの局面が幕を下ろそうとしているのだ。ただ次にどんな展開が待っているのかは、まだ定かではない。

10年債利回りが16年ぶりの高水準に達するなど、最近の国債利回りの劇的な上昇に対する注目度は非常に高まっている。背景には、米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和で必死に対抗してきた金融危機後の物価押し下げ圧力が影を潜めた、という見方があることが、投資家への取材やニューヨーク連銀の国債利回りをベースとした分析モデルから読み取れる。

それに代わって投資家の間に広がっているのは、米国が恐らく「高圧経済」、すなわち物価上昇率はFRBが目標とする2%より高く、失業率は低水準、成長率はプラスという世界に入ったかもしれないという考え方だ。

ダブルラインのポートフォリオマネジャー、グレッグ・ホワイトリー氏は「われわれは新時代に突入した。物価押し上げを巡る苦労はなくなり、逆に懸命に押し下げ続けることになる」と述べた。

金利見通しもがらりと一変し、政策や企業、一般の人々に多大な影響を及ぼす。金利が上がれば確かに預金者には朗報だろう。しかし企業や消費者は過去15年間も、お金をほぼ「ただ」で借りることができる状況に慣れてしまった。だからより高い金利がより長く続く環境は痛みを伴い、さまざまな事業モデルの失敗が明らかになるとともに、住宅や車が手の届かない価格になりかねない。

FRBとしても、3月に地銀3行の破綻を招いたような、不測の事態が再び起きるような水準に金利を維持していかざるを得ないことを意味する。ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は先週、高圧経済の下では、FRBはさらに政策金利を引き上げる必要があり、場合によっては物価上昇率を目標に収めるために相当大幅な利上げを迫られると警鐘を鳴らした。

カシュカリ氏は、そうしたシナリオが現実化する確率を40%と見込んでいる。

<利回りの構成要素>

10年債利回りの構成要素を分解したFRBのモデルは、投資家により深みのある知見をもたらしてくれる。

ここ数日で、10年債利回りのうち、投資家が長期の資金提供の見返りとして要求する「タームプレミアム」が2021年6月以来初めてプラスに転じたことが、この「エイドリアン・クランプ・モエク(ACM)モデル」から分かる。

過去10年のほとんどの期間でゼロ未満に沈んでいたタームプレミアムのプラス圏浮上は、経済と金融政策の先行きに関する不確実性の大きさを物語る。

同時に利回りの別の構成要素である、向こう10年について市場が織り込む短期金利水準も、最近数カ月で急速に上昇して約4.5%に達している。これは投資家が、現在5.25─5.50%の政策金利は今後何年も下がらないとみていることの表れだ。

こうした金利見通しの上振れはタームプレミアムに跳ね返ることになる。

そのタームプレミアムがずっと押し下げられていた1つの理由は、FRBが政策金利をゼロにした後でも景気を刺激するために大規模な国債の買い入れを行っていた点にある。

ところが今後金利水準が高くなれば、FRBは金利の調整だけで政策対応が可能となり、国債買い入れをする必要はなくなる。実際、FRBは保有国債を圧縮し、バランスシートの縮小を進めている。

AMCモデル開発者の1人で現在フランクフルト金融経営大学教授のエマニュエル・モエク氏は「非常に潤沢な資金を持つ国際投資家(FRB)が少しずつ市場から退出しつつある。それは米国債の今後の動きに相応の不確実性をもたらすはずだ」と指摘した。

<闇に鉄砲>

短期金利の上振れは、脱グローバル化や生産性低下、高齢化といった構造的な諸変化の反映でもあり、巡航速度での経済成長を可能にするいわゆる自然利子率(Rスター)をますますとらえがたくしてしまう。

BNYメロンのFX・マクロ米州ストラテジスト、ジョン・ベリス氏は「長期のRスターは恐らくFRBの想定より高い。世界金融危機後のディスインフレの波動は消えた」と述べた。

そして市場はゼロ金利時代の終了こそ確信しているようだが、経済が実際にこれからどういう道を歩むのかは判断に迷っている。

例えばRスターはFRBの政策が今後景気抑制的か刺激的かを左右するはずであるものの、推計値は非常に幅広いし、実際には誰も把握できない。

UBSグローバル・ウエルス・マネジメントの課税債券戦略責任者レスリー・ファルコニオ氏は「自然利子率を巡る問題は、過ぎてしまうまで分からないことだ」と説明した。

どうやら不確実性の時代がやってきたことは政策担当者にも認識され始めた。サンフランシスコ地区連銀が8月に公表した調査では、政策担当者間の経済見通しのかい離幅が6月までに新型コロナウイルスのパンデミック前の平均を上回ったことが判明している。

BNYのベリス氏は、現在の国債市場の価格形成に基づけば、投資家が見込む高圧経済シナリオの実現確率はカシュカリ氏の想定より高いと話す。

ただしそれを数量化できるかと問われたベリス氏は「どう試みても『闇に鉄砲』となってしまう」と正確な計測が不可能との見方を示した。

※写真を差し替え再送します。

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