ニュース速報

ビジネス

インタビュー:日銀、来年初めにも短期金利引き上げる可能性=渡辺・東大教授

2023年05月31日(水)08時48分

 5月31日、 東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授はロイターとのインタビューで、来年の春闘の帰すう次第で日銀が来年初めにも短期の政策金利を引き上げる可能性があると述べた。都内の日銀本店前で4月撮影(2023年 ロイター/Androniki Christodoulou)

[東京 31日 ロイター] - 東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授はロイターとのインタビューで、来年の春闘の帰すう次第で日銀が来年初めにも短期の政策金利を引き上げる可能性があると述べた。政府の経済財政諮問会議の特別セッションで委員を務める渡辺氏は、「労使の見方が変わってきたことがはっきり分かれば、利上げはあり得る」と話した。

一方で渡辺教授は、今年機運が高まった賃上げの持続性に企業も労働組合も「半信半疑だ」と指摘。今年の中小企業の賃上げは予想よりも良かったが、原材料高で厳しい中で実現したこともあり、来年の賃上げは「さらに厳しいと中小企業は話している」と述べた。企業や労組の予見可能性を高めるため、政権が先々の最低賃金の目安を示すなどの対応が必要だとした。

渡辺教授は、4月の日銀決定会合の声明文に賃金上昇の文言が入ったことは「非常に画期的だった」と評価。様々な賃金指標のどれを重視するのか、正規・非正規のどこまでを考慮していくかなど、日銀が重視するポイントを追加で明文化すれば「予見可能性がさらに高まる」と話した。

日銀の植田和男総裁が前任の黒田東彦氏から引き継いだ長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)については「早くやめた方がいい」と語り、短期金利引き上げの前に撤廃すべきとした。短期のマイナス金利と10年金利の「2点を抑えるのは無理があるというのが一番大きな教訓だ」とし、無担保コール翌日物金利のみ制御するやり方に戻すべきとの考えを示した。

一方で、「YCCを変えると翌日物金利も引き上げるニュアンスを生んでしまう」と話し、修正のタイミングは難しい判断になるとした。

物価研究の専門家として知られ、日銀の物価に関する勉強会で昨年パネリストを務めた渡辺氏は「日本国内の事情で賃金や物価が動き始めている」とした。国内の物価見通しについて、日銀が予測するような「減速にはならない」と語った。米景気の減速で日本の企業収益が悪化しても「それとは違う(国内の)力学で賃金や物価は決まっている」と説明した。

渡辺教授は、長らく日本に定着してきた「物価は上がらない」という社会通念が「良い方向に崩れつつある」と指摘した。企業は値上げに自信を深め、最新の価格戦略を学ぶ動きもある一方で、これまで価格は変わらないと強く信じてきた日本の消費者のインフレ予想も上昇していると語った。

植田総裁率いる日銀は、足元の物価高の主因は需要の強さではなく「海外に由来するコストプッシュ要因」(19日の植田氏講演)とみている。生鮮食品を除く消費者物価の先行きについては、輸入物価の上昇に伴う値上げの影響が減衰することで「今年度半ばにかけて2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」としている。

インタビューは30日に実施しました。

(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピンで中間選挙の投票開始、正副大統領の「代理

ビジネス

街角景気4月は2.5ポイント低下、「このところ回復

ビジネス

米肥満症薬ゼップバウンド、効果がウゴービ超え、直接

ワールド

印パ停戦、次の段階に向け軍事責任者が協議へ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中