ニュース速報

ビジネス

日銀支店長会議、賃上げ「広がっている」 持続へ生産性向上がカギ

2023年04月20日(木)18時27分

 4月20日、日銀は公表した地域経済報告(さくらリポート)で、全9地域中、東海の判断を引き上げる一方、東北を引き下げ、その他7地域は判断を据え置いた。写真は都内で2020年9月撮影(2023年 ロイター/Issei Kato )

[東京 20日 ロイター] - 日銀が20日に開いた支店長会議では、賃金について、人手不足感の高まりや物価上昇を受けて、中小企業でもベアを久しぶりに実施するなど「賃上げの動きが広がっている」との報告が多かった。会議後に記者会見に臨んだ支店長からは、賃上げの持続には価格転嫁や生産性の向上が重要になるとの指摘が出された。

今年の春闘の第4次集計では、定期昇給込みの賃上げ率が3.69%。物価高を反映し、エコノミストの予想を上回る賃上げ率になっている。賃金上昇を伴う2%物価目標の実現に向け、中小企業への波及や賃上げの持続性が焦点になる。

中島健至大阪支店長(理事)は、賃上げが関西地方の中小企業に波及しているのか「統計の発表を待ちたい」と述べるにとどめた。一方、広島鉄也名古屋支店長は中小企業の賃上げについて、現時点の情報を踏まえると「大企業より多少伸び率は落ちるものの、例年に比べてかなりしっかりした伸び率になる」と話した。

松野知之札幌支店長は、収益環境が厳しい中で「小幅な賃上げや賞与で対応する企業が多数派だ」と述べた。

賃上げの持続性について、広島名古屋支店長は、コスト高の転嫁や生産性向上が進むのかが重要な要素になるとの声が中小企業から聞かれると述べた。

<生産性向上へ労使が合意、来年の賃上げへ布石か>

中島大阪支店長は「過去にないマグニチュードでコストの価格転嫁が進んでいる」と指摘。「物価や賃金は上がらない」との固定観念の転換を「期待させるいろいろな動きが出てきているのは事実」と話した。

浜田秀夫福岡支店長は、生産性向上に向けた取り組み強化で労使が合意した事例を紹介、「来年以降の賃上げもありうるという含意があるように感じている」とした。こうした動きの背景には物価上昇が来年も続くとの予想があるとして「マインドチェンジが始まっているのではないか」と語った。

植田和男総裁は総裁就任後初めて支店長会議に臨んだ。2005年に審議委員を退任して以降、18年ぶりの出席となる。植田総裁は冒頭、経済・物価を取り巻く不確実性がきわめて高い中で「本支店から寄せられるミクロ情報の重要性は一段と増している」と述べた。

<景気判断は7地域で据え置き>

日銀が同日公表した地域経済報告(さくらリポート)では、全9地域中7地域で景気判断を据え置いた。供給制約の緩和や個人消費の持ち直しで東海の判断を引き上げる一方、東北は半導体生産の弱含みで判断を引き下げた。資源高の影響などを受けつつも、供給制約や新型コロナウイルス感染症の影響が和らぐ中で、いずれの地域も「持ち直している」、「緩やかに持ち直している」と総括した。

需要項目別で、個人消費は北海道・北陸・東海・近畿・中国・九州沖縄の6地域で判断引き上げ。支店長会議では、物価高を背景に消費者の生活防衛意識が強まる一方で、感染症の影響緩和で「サービス分野を中心に売り上げが増加している」との報告が多かったという。

生産の判断引き上げは東海の1地域のみ。広島名古屋支店長は「半導体調達の不安定さは足元でもまだ残っているが、生産への影響は全体として緩和に向かっている」と指摘した。ただ、東北・北陸・関東甲信越・近畿・中国・四国・九州沖縄の7地域で判断引き下げ。7地域の判断引き下げは2020年7月以来。世界経済の減速が影響した。

(和田崇彦 編集:宮崎亜巳)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、政治的理由でガザ戦争引き延ばしも─バ

ビジネス

米求人件数、4月は805.9万件に減少 3年超ぶり

ワールド

ロシア、トルコ外相のBRICS加盟望むとの発言を歓

ワールド

イスラエル「米国の庇護」下、合意に真剣でない ハマ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しすぎる...オフィシャル写真初公開

  • 3

    昨年は計209匹を捕獲...18歳未満でも参加可、フロリダ州の「ニシキヘビ・チャレンジ」とは?

  • 4

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 7

    ロシアが「世界初」の地上型FPVドローンを開発、「竜…

  • 8

    NATO諸国、ウクライナ支援の方針転換でプーチンの警…

  • 9

    肥満や足が遅い人のための登山隊も出現、エベレスト…

  • 10

    【独占】「熟練エンジニア」が集まる...日本の半導体…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しすぎる...オフィシャル写真初公開

  • 3

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 4

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 10

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中