ニュース速報

ビジネス

アングル:商用軽EV、低価格で仕掛ける中国勢 打ち破れるかブランドの壁

2022年12月02日(金)14時41分

 脱炭素に向けた対策の一環として日本の物流業界では軽商用車のEV化が選択肢として注目されている。写真は2018年8月、福建省寧徳で撮影した寧徳時代新能源科技(CATL)のビル(2022年 ロイター)

[東京 2日 ロイター] - 「中国企業の基本的なスピード、特に決断の早さに圧倒される」ーー中国自動車メーカーとタッグを組み、日本の商用電気自動車(EV)市場を攻め込むEVベンチャー企業ASF(東京都千代田区)の飯塚裕恭社長はこう語る。飯塚氏はかつて家電量販店大手のヤマダ電機(現・ヤマダホールディングス)で取締役執行役員を務め、EV部門を担当した経験があり、その際、国内メーカーと組むことの難しさを痛感していた。

脱炭素に向けた対策の一環として日本の物流業界では軽商用車のEV化が選択肢として注目されている。自動車メーカーにとって市場規模はまだ小さいものの、潜在的な成長期待は強い。三菱自動車が生産をいったん終えた軽商用EVの再販売に踏み切るなど異例の動きをみせているほか、ホンダなど日本勢も投入準備を進めている。こうしたブランド力のある国内メーカーに対して価格面での競争力を前面に打ち出して挑むのがASF・中国メーカー連合だ。

ASFの飯塚社長は「我々の価格についてこられる国内メーカーはいないのではないか」と自信をみせる。「コストほど顧客に刺さるサービスはない。15─16社ほど、さまざまな業界大手から連絡が来ている」とも明かす。商談が進んでいる企業はメンテナンス会社、清掃会社、飲料メーカーなど多岐にわたるという。

同社が開発した商用EVは中国の上汽通用五菱汽車が生産。2023年春にSGホールディングス傘下の佐川急便に納車する予定だ。佐川は30年までに保有している軽自動車7200台全てをEV化することを目指している。

電池は車載電池世界最大手で中国の寧徳時代新能源科技(CATL)製のものだ。トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など日本勢もCATLから供給を受けている。

納入先の佐川からは「200キロメートルは安心して走りたい」との要望があり、航続距離は230キロメートルを確保した。価格は国の補助金を使うと150万円程度になる。

<EV率1%、大きな伸びしろ>

一方、日本の自動車メーカーでは三菱自が異例の勝負に出た。11年に国内初の軽商用EVとして発売した「ミニキャブ・ミーブ」の再販だ。当時は商用EVへの関心が低く需要が低迷、21年3月に生産を終了していた。再販に至った背景について、同社軽EV推進室の五島賢司室長は、20年に菅義偉元首相が宣言した「50年のカーボンニュートラル実現」以降、「世の中の潮目を感じた」と話す。

再販にあたり一部の安全機能などを追加したが、性能は従来型とほぼ同じ。電池や車体、デザインも従来のままで全面改良はしていない。今は競合がまだ少ないと判断。同車への問い合わせが増えるにつれ、「なるべく早く顧客に届けたい」と、まずは従来モデルの投入を決断した。

価格も約243万円からと従来のまま据え置いた。国の補助金を考慮すると実質200万円程度だ。航続距離は133キロメートル。今後は新モデルも「将来的に視野に入れて検討していく」としている。

当面の生産台数は月間400台、年間にすると約4800台。ミーブの累計販売台数は約10年間で1万0489台、生産終了前の20年度は1456台にとどまっていたため、従来の販売台数を大幅に上回るペースとなる。日本郵政傘下の日本郵便には19年秋から現在まで1500台を納車しており、今後も納車台数は増える見込みという。

このほか、トヨタが主導し、スズキ、ダイハツ工業、いすゞ自動車が参画する商用車技術開発会社コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジー(CJPT)やホンダなどの日本勢も投入に向けて準備を進めている。CJPTは23年1月から社会実証を始め、ホンダは24年前半に商用軽EVを発売する計画だ。

全国軽自動車協会連合会によると、22年4月時点の軽の保有台数は約3100万台で、そのうち商用車が約4割。軽商用バンの総需要は毎年約20万台で推移しているという。同車種は主にスズキ、ダイハツ工業、ホンダが強みとしているものの、現状ではEVはミニキャブ・ミーブのみのため、EV比率は軽商用バン全体の1%前後にとどまる。

<多様なニーズ>

ホンダの三部敏宏社長は「EVを普及させるためには、商用、特に日本の主力である軽自動車という領域を攻略するのが一番早い」と4月の記者会見で述べている。法人での商用EV導入は事業活動におけるCO2削減量の公表が可能となるなど、副次的なメリットが多く、個人向けより導入に対するインセンティブが高い。

日本郵便は、25年度までの5年間で軽自動車1万3500台、二輪車2万8000台の集配用車両のEV化を目指す。実証実験で得られた効果のほか、自動車メーカー各社が商用EVへの参入を表明したことなどを理由に、計画の前倒しと上積みを発表している。ヤマトホールディングスのヤマト運輸も、30年までにEV2万台を導入することを目指している。

ASFの飯塚社長によると、「とにかく車両がいち早く欲しいという企業もあった」という。日本における商用車市場はこれまで国内自動車メーカー一強の状態が長らく続いてきたが、商用車のEV需要が急速に高まる中、状況は変わりつつある。公表されているモデルでは、ASFの車両のほうが、ミニキャブ・ミーブより低価格で航続距離も長い。

東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは、国内自動車メーカーはこれまでの取引やネットワークもあり、購入先がある程度確定しているとみる一方、価格が魅力で購入を決める法人顧客もいるため、中国製も選択肢に入ってくると分析する。

「手っ取り早く(EVが)欲しいという顧客もいれば、買うなら(機能の)きちんとしたものを買いたいという顧客もいるだろう」と指摘する。

(佐古田麻優、杉山聡 編集 橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中