ニュース速報

ビジネス

アングル:「安全で低価格」、中国EVメーカーが欧州に大攻勢

2022年11月26日(土)08時07分

11月12日、 中国の電気自動車(EV)メーカーは欧州市場に狙いを定め、トップクラスの安全性評価と山盛りのハイテク機能を備え、より安価な製品で顧客を勝ち取る構えだ。写真は小鵬汽車のP7。ニューヨーク証券取引所前で2020年8月撮影(2022年 ロイター/Mike Segar)

[ソリフル(英イングランド中部) 21日 ロイター] - 中国の電気自動車(EV)メーカーは欧州市場に狙いを定め、トップクラスの安全性評価と山盛りのハイテク機能を備え、より安価な製品で顧客を勝ち取る構えだ。

この数カ月間で幾つかの中国EVメーカーが、欧州における新型車の安全性評価プログラム「Euro NCAP」で最高評価の5つ星を獲得した。5つ星を得るためには法律で定められた基準をはるかに越える高い安全機能を装備する必要がある。

5つ星を手に入れる中国メーカーは、さらに増えそうだ。

中国の新興EVメーカー、小鵬汽車(シャオペン)のブライアン・グー社長は「中国の全EVメーカーが欧州市場での競争力を高めるため、Euro NCAPの5つ星を得たいと考えている」と述べた。

小鵬は来年、オランダやノルウェーなど欧州4カ国でEVの販売を正式に開始する。

保険会社が設立した英自動車調査団体、サッチャム・リサーチのディレクター、マシュー・アベリー氏は、中国EVメーカーは販売の過程で安全性が非常に重要な役割を果たすという認識を持っている、と述べた。

中国製自動車は2006年と07年に衝突試験で不合格となり、安全性に問題があるとの印象が広がった。そのためEuro NCAPの5つ星取得は、欧州における品質への懸念を一掃する上で鍵と目されている。

販売面でより重要なのは、高い安全性評価を手に入れることで、レンタカー業者など法人にまとまった台数を販売する、潜在的に巨大な「フリート販売」市場の開拓に道が開かれる点だ。

ドイツ、フランス、英国など主要市場は、自動車販売の約半分をフリートが占め、多くの法人顧客は安全性を重視する。

<EV化進めるレンタカー会社>

さらにレンタカー会社などの法人顧客の多くは、持続可能性目標を達成するためにEVへの移行を望んでいる。しかし、供給網の問題から一部のモデルが納車まで1年以上の「待ち」になるなど、欧州で十分な量のEⅤを手に入れるのは難しい。

需要の高まりを背景に、欧州メーカーはEVの価格を引き上げ、法人顧客向けよりも利益率が高い一般顧客向けに軸足を置くことが可能になり、中国メーカーにチャンスが生まれた。

例えば、ドイツのレンタカー会社・シクストは10月、中国EV大手の比亜迪(BYD)から約10万台のEVを調達し、手始めとして同月にEuro NCPAの5つ星を取得したスポーツタイプ多目的車(SUV)、「ATTO3」を購入すると発表した。

中国の新興EVメーカー、愛馳の幹部は、来年には法人顧客向けフリート販売市場に参入する計画で、電動SUV「U6」に特別な安全機能を搭載すべく設備投資を行っていると明かした。

<もはや当然>

フランスの自動車コンサルタント会社、Inovevによると、欧州における今年1─9月の中国製自動車の販売は約15万5000台で、市場シェアは1.4%。しかし、中国製自動車は販売のほぼ半分をEVが占めており、欧州のEV市場におけるシェアは5.8%だ。

Inovevのジャメル・タガンツァ副社長は、より安価なモデルが投入され、今後数年以内に欧州で販売される中国製自動車は、全てEVになると予想する。

Inovevの推計によると、欧州の新車市場におけるEVのシェアは2030年までに40%に高まり、完全EV車市場における中国ブランドの販売台数は72万5000─116万台、シェアは12.5─20%となる見通し。

タガンツァ氏によると「これは控えめな予想」で、「特に欧州メーカーが手頃な価格のEⅤが欲しいという地元のニーズに応えられない場合、もっと急速に増加する可能性がある」という。

5つ星を獲得するには、エアバッグや衝突回避システム、運転支援システム、ドライバー監視など安全機能を追加するための高額投資が必須。

サッチャムのアベリー氏によると、中国EVメーカーはEuro NCAPに積極的に関与しており、最高評価を得るために欠かせない投資を熱心に行なっている。同氏は「中国製イコール低品質、危険というイメージは捨てなければならない。中国製の品質は今や、他メーカーを凌駕している」と説明する。

BYD欧州のマネージング・ディレクター、マイケル・シュー氏は「5つ星評価は、非常に基本的な要件であるべきだと考えている」と言い切った。

<優位性を活用>

中国の自動車大手、長城汽車は小型EV「ORA フランキー・キャット」を年内に英国、ドイツ、アイルランド、スウェーデンで発売する予定。

英国での販売価格は3万2000ポンド(3万6330ドル)程度と、フォルクスワーゲン(ⅤW)のEⅤ「IⅮ.3」より約5000ポンド安い。しかも顔認識で好みの座席ポジションを記憶させる機能のほか、運転支援システム、バックカメラ、スマホのワイヤレス充電などの機能を備えている。

上海のコンサルタント会社オートモビリティーのビル・ルッソ代表は、海外自動車メーカーの多くが低コストEVの製造で中国のライバル企業に優位を許しているのが問題だと指摘。「地球上で手頃な価格のEVを見つけることができるのは、中国のみだ。中国メーカーはその優位性を活用している」と分析した。

(Nick Carey記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金利正常化は「適切なペース」で、時期は経済・物価見

ビジネス

PB目標転換「しっかり見極め必要」、慎重な財政運営

ワールド

中国、日中韓3カ国文化相会合の延期通告=韓国政府

ワールド

ヨルダン川西岸のパレスチナ人強制避難は戦争犯罪、人
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中