ニュース速報

ビジネス

アングル:J&Jコロナワクチン、欧州で「脇役」になった理由

2021年06月24日(木)18時55分

6月23日、欧州で新型コロナウイルスワクチンの供給危機が頂点に達した今年3月、1回の接種で済む米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のワクチンが登場すると、状況を一変させる期待の星としてもてはやされた。写真はJ&Jのワクチンのイメージ。2月撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

[ブリュッセル 23日 ロイター] - 欧州で新型コロナウイルスワクチンの供給危機が頂点に達した今年3月、1回の接種で済む米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のワクチンが登場すると、状況を一変させる期待の星としてもてはやされた。しかし、供給開始から2カ月を経た今、欧州連合(EU)では承認済みの同ワクチン4種類のうち、J&J製の利用率が最も低くなっている。

各国が採用を控える背景には、供給問題、安全性への懸念、競合ワクチンの供給状況の改善、国ごとの接種戦略など、多くの要因が働いている。

2回目の接種が必要ないという明確な利点があるにもかかわらず、EUは供給を受けたJ&J製ワクチンの約半分に当たる600万回前後しか接種に使用されていない。やはり供給と安全性の問題が採用の障害となった英アストラゼネカ製を含め、競合する3種のどれよりも低い利用率だ。

これはJ&Jにとって悪い知らせであると同時に、EUの接種計画の効率性についても疑問を生じさせる。

とりわけEUの心象を悪くしたのは、J&J製の供給の問題だ。EUは当初発注した2億回分に加え、1億回分を2度に分けて追加注文するオプションのうち、1億回分の権利放棄を既に決定。残る1億回分については6月末に権利が失効するが、まだ態度を決めていない。EU高官らによると、注文する場合でも域外の国々に寄付する可能性が高い。

<高かった期待>

3カ月前の状況は、今と全く違った。

欧州委員会のキリアキデス委員(保健衛生・食の安全担当)は3月11日、「接種が1回で済むワクチンは、接種スピードに変化をもたらし得る」と述べた。

EUは当時、アストラゼネカ製の供給が予定より大幅に削減されたことが主な原因となり、接種を進めるのに苦闘していた。J&J製は当初4月に到着すると予想されており、接種の進展に決定的な役割を果たすと考えられた。

到着は2週間遅れたが、その時点でもEU高官らは前向きだった。欧州議会で健康問題を担当する有力議員、ピーター・リース氏は4月12日、「(J&J製)ワクチンはEUの接種ペースを大幅に加速させるだろう」と述べた。

だが、それから2カ月たった今でもEUに供給されたのは約1200万回分にとどまり、6月末までに到着が予定されていた5500万回分には遠く及ばない。今月はJ&Jが製造委託する米企業で製造上の問題が発覚し、EUが約2000万回分の供給を拒否する事態も起こった。EUは今、J&Jが当初の供給目標を達成できないと考えている。

欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、供給量に対する利用率は22日時点でJ&Jが約半分なのに対し、ファイザーは供給量約2億5000万回の90%以上、モデルナは3000万回分の約85%、アストラゼネカは7000万回分の約75%が接種済みだ。

欧州委員会の報道官は、J&J製の利用率の低さについてコメントを控えた。

J&Jは、EUから受注した2億回分は供給すると繰り返し表明している。ただ、第2・四半期の供給目標と利用率の低さについては、コメントを控えた。

<島向けのワクチン>

J&J製の利用率が低い一因は、ごくまれではあるが死亡につながる恐れのある血液凝固障害との関係が分かり、接種が一時中断されたことにある。J&J製の利用には、いくつかの制限も設けられた。

アストラゼネカ製にも同様の副作用が指摘されてEUで使用制限措置が採られたが、問題が発覚したのは欧州で多くの人々が接種を受けた後のことだった。これに対し、J&J製で副作用が起こり得ることは米国で接種が始まって分かったが、それはEUで同社製の接種が始まる前だった。

欧州医薬品庁(EMA)の元ディレクターで、現在はイタリア政府で新型コロナ対応の顧問を務めるグイド・ラシ氏は、J&J製ワクチンの低い利用率に「戦略的な理由があるわけではない」と話す。

ラシ氏はJ&J製の利用率が低い理由の1つとして、重症化リスクの高い人々の多くが、他のワクチンの接種を終えたタイミングで入手可能になり、利用の切迫度が低かったことを挙げる。

皮肉なことに、J&J製が持つ物流上の利点が利用率の低下につながった可能性もあるという。当局が、人口の少ない遠隔地で利用しようと考えたからだ。

「接種が1回で済むという性質上、2回の接種がより困難な場所で利用した方が良いと見なされた。島や、国の中でも行くのがより困難な地方などだ」とラシ氏は語った。

(Francesco Guarascio記者、 Emilio Parodi記者、 Matthias Blamont記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=上昇、エヌビディアやパランティアが高

ビジネス

NY外為市場=円下落・豪ドル上昇、米政府再開期待で

ワールド

トランプ氏、英BBCに10億ドル訴訟警告 誤解招く

ワールド

サルコジ元仏大統領を仮釈放、パリの裁判所 10月に
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中