ニュース速報

ビジネス

日銀点検を読む:期待インフレに考慮、フォワードガイダンス見直しも=下田・一橋大特任教授

2021年02月26日(金)16時07分

 一橋大学の下田知行国際・公共政策大学院特任教授は、日銀が政策点検に踏み切った背景について、現行政策の成否を判断する上で最も重要な指標となる期待インフレ率の水準が2013年の量的・質的金融緩和(QQE)スタート時点の水準まで戻ってしまったことに対する危機感などがあると指摘した。写真は都内のビル群。2020年12月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 26日 ロイター] - 一橋大学の下田知行国際・公共政策大学院特任教授は、日銀が政策点検に踏み切った背景について、現行政策の成否を判断する上で最も重要な指標となる期待インフレ率の水準が2013年の量的・質的金融緩和(QQE)スタート時点の水準まで戻ってしまったことに対する危機感などがあると指摘した。3月の点検では、期待インフレ率を引き上げる政策ツールとしてフォワードガイダンスの見直しが有力な手段になるとの見方を示した。

    下田氏は日銀出身。イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の運営について、10年物金利(長期金利)の誘導目標をプラス圏のレンジに設定することや、2年物金利もしくは5年物金利を新たに操作対象に加えて「3点支持」にすることなど、今後の金融政策に対する自身のアイデアも披露した。

    <期待インフレの水準に危機感>

    下田氏は、QQEはデフレ脱却のために「期待インフレがゼロ%の望ましくない均衡」から「2%の望ましい均衡」に移行させる狙いで行っているものであり、期待インフレが出発点に戻った以上、「その原因の検証が政策対応の出発点になる」と指摘する。米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が金融政策の目標や戦略の見直しを行っていることも、日銀が点検実施を決断した背景にあるとみている。

    FRBが一時的な物価の上振れを容認する「平均インフレ目標」を導入し、ECBも採用を検討中とされる中、この考え方を期待インフレの引き上げの必要性が最も高い日銀が採用しないのは出遅れ感を与えかねないと指摘。日銀もフォワードガイダンスの見直しを通じて「平均インフレ目標」を事実上採用することも考えられるとした。

    日銀の政策は、量にひも付けた「オーバーシュート型コミットメント」と金利にひも付けたYCCに関わるフォワードガイダンスが混在し複雑になっているとして、下田氏は「この際、YCCの金利操作にひも付けたフォワードガイダンスに一本化し、そこに『オーバーシュート』の考え方を取り入れればシンプルになる」との見方を示した。

    <10年物金利のレンジターゲット>   

    下田氏は、日銀が2016年9月にYCCを導入した時から、金融機関の収益や生保・年金の運用に生じる副作用対策としてイールドカーブをスティープ化させることが課題だった、と指摘。日銀が今回の点検で長期金利の操作目標の柔軟化や弾力化を図るとみている。

    声明文ではすでに金利について「上下にある程度変動しうる」とされており、現状の運営方針との違いをより鮮明にするため、「操作目標をレンジターゲットにして、『ゼロ─0.2%を中心にある程度柔軟に変動することを許容する』としてはどうか」と提案する。   

これまではゼロ%を中心にプラスマイナス0.2%といった上下で同じ幅のレンジがイメージされていたが、「ゼロ─0.2%」とプラス圏を中心レンジとすることで「マイナス圏よりプラス圏が望ましい、イールドカーブのフラット化は望ましくないという明確なメッセージになる」との見方を示す。

    <イールドカーブの「3点支持」>

    長期金利のレンジターゲットをプラス圏に置いてイールドカーブのスティープ化を促した場合、長期金利の上昇を許容し、緩和姿勢が後退するとの懸念が生じる。その点について、下田氏はイールドカーブの「3点支持」が工夫として考えられるという。

「緩和の効果を実体経済に及ぼす上で重要な家計や企業の借り入れ金利は、2年物や5年物が意味を持つ。従来の政策金利と10年物金利に加え、新たに2年物金利か5年物金利を操作対象金利とし、ここを低位に保つことで緩和は継続というメッセージを明確にできる」と主張。さらに「それを比較的自由に動かせるようにしておく、というのが将来的な政策の柔軟性や機動性を確保する観点でも有効だ」と指摘する。

    その上で「為替が落ち着いた動きで、加えて株高の今は『3点支持』を導入する必然性はないかもしれないが、導入のメリットが実感される局面はいずれ訪れるのではないか」との見方を示した。

(略歴)1989年東大法卒、日銀入行。国際決済銀行(BIS)派遣、金融機構局国際担当総括、国際通貨基金(IMF)日本代表理事代理、松山支店長、企画局審議役などを経て2018年から現職。金融政策(異次元緩和)、金融規制(バーゼル規制交渉)、決済・金融市場インフラ(国際基準策定)で政策の企画・立案や国際交渉を担当。

このインタビューは25日に実施しました。

(杉山健太郎 編集:田中志保)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は反発、停戦持続に懐疑的見方 ホルムズ海峡

ワールド

ヒズボラ、イスラエルにロケット弾攻撃 レバノン攻撃

ワールド

米消費者の燃料費、停戦合意でも夏の行楽期いっぱい高

ワールド

トランプ氏、NATOのイラン対応に不満表明 事務総
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    アメリカとイランが2週間の停戦で合意...ホルムズ海…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 10
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中