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アングル:日銀の政策達成にコミュニケーション改革必須

12月4日、日銀の金融政策に対する国民の理解度が過去最低となっている。写真は都内で2017年6月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 4日 ロイター] - 日銀の金融政策に対する国民の理解度が過去最低となっている。日銀の調査によると、7割超の人が、日銀が積極的な金融緩和を行っていることすら知らない。量的・質的金融緩和は「期待」に働きかける政策だが、調査結果を見る限り、政策は国民に行き届いていない。専門家からは、政策効果を高めるためにも抜本的なコミュニケーション改革が必要との声も出ている。
<日銀の政策、「関心なし」「聞いたことがない」>
「物価目標2%を理解してもらうのは最終ステージで、まずは何をしているのかを理解してもらうところから始めたほうがいい」──。こう話すのは、日銀出身で野村総合研究所主席研究員の井上哲也氏だ。
日銀が四半期に1回実施している「生活意識に関するアンケート調査」(2019年9月調査)によると、日銀が消費者物価の前年比上昇率2%を物価安定の目標として掲げていることを知っている人は22.7%で、過去最低を更新した。
積極的な金融緩和を行っていることを知っている人も24.2%にとどまり、回答者の7割超は「見聞きしたことはあるが、よく知らない」か「見聞きしたことがない」という状況にある。
そもそも、日銀の活動に「関心がある」人も24.2%と少なく、一方の「関心がない」は44.0%との結果も出ている。(6月調査)
関心がない背景には、金融・経済のわかりにくさもあるようだ。日銀の説明はわかりやすいかとの問いに対して、「わかりやすい」と答えた人はわずか5.8%で、「わかりにくい」は53.8%に達している。
わかりにくい理由を問うと、「日銀について基本的知識がない」という回答が44.2%、次いで「金融や経済の仕組み自体がわかりにくい」が41.2%、「日銀の説明や言葉が専門的で難しい」が40.2%と続いている。
さらに4番目の理由として「そもそも日銀の説明を見聞きしたことがない」が28.6%に上ることも見逃せない。
日銀は2019年に金融政策に関連する講演・挨拶だけでも26回(12月4日現在)行っており、これに年8回ある金融政策決定会合後の総裁会見や国会における説明などを入れると、「説明責任はそれなりに果たしていると言える」(市場関係者)。
それもかかわらず、3割弱が日銀の説明を聞いたことがないと回答している現状は、コミュニケーションの仕方に改善の余地があると言えそうだ。
<必要なのは国民目線に合わせたコミュニケーション>
日銀はこれまで市場やメディアとの対話を重視してきたが、情報の伝達ルートが多様化する中で、ひとつのルートだけでは国民に情報が届きにくくなっている。このため、さまざまなルートを用いた、国民の目線に合わせた直接対話がこれまで以上に重要になっている。
金融機関や金融リテラシーを研究している桃山学院大学経済学部の北野友士准教授は、イングランド銀行(英中央銀行)の取り組みが参考になるのではないかとみている。
イングランド銀行は、1)意思疎通(コミュニケーション)、2)会話(カンバセーション)、3)教育(エデュケーション)──の3つのルートによる家計への働きかけを強めており、視覚的にわかりやすい情報発信をしたり、「関係者がラジオ番組に出て、一般リスナーからの質問に答えたりしている」という。
北野准教授は「こうした取り組みは非常に大事で、結局、金融の専門家ではない人が実際に行動してくれないと、物価安定の目標は達成できない」と指摘する。
日銀も手をこまねているわけではない。日銀の業務などについて説明する出前講義を行ったり、SNS(交流サイト)を活用したりしているが、国民との直接対話という点では欧米に見劣りする。米国は「Fedリッスンズ」と呼ばれるイベントで国民との対話を続けている。
井上氏は、日銀の政策委員が全国で実施している金融経済懇談会のあり方を見直すべきと提言している。「現在の懇談会の参加者は地銀の頭取や地元産業界のトップだが、主婦に参加してもらうとか、地元大学を訪れ学生と対話をするとか、地場の中小企業従業員と話をするとか、あり方を見直したほうがいい」。
非伝統的な政策においては、国民の理解度が重要な鍵を握る。北野准教授は「インフォームド・ディシジョン、情報に基づき意思決定をしていくことの重要性をもう少しきちんと教えていかなければいけない」と、金融リテラシー教育の必要性も指摘した。
(志田義寧 編集:田中志保)