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アングル:米インフレ加速、市場に何を意味するか

2018年02月15日(木)16時03分

 2月13日、米金融市場における最近の混乱は、過去10年近く経済も投資家も直面する必要のなかった事象が原因となっている。つまりそれは、インフレ高進に対する懸念だ。NY証券取引所で9日撮影(2018年 ロイター/Brendan Mcdermid)

Chuck Mikolajczak and Lucia Mutikani

[13日 ロイター] - 米金融市場における最近の混乱は、過去10年近く経済も投資家も直面する必要のなかった事象が原因となっている。つまりそれは、インフレ高進に対する懸念だ。

S&P総合500種<.SPX><.INX>は最大10.2%の急落を経て、1月26日に更新した史上最高値から7%超下回った水準にある。ベンチマークの米10年国債利回りは、主にインフレ懸念を背景として4年ぶり高水準となった。

モノやサービスの価格上昇はもちろんのことだが、インフレとは厳密に何を意味するのか。なぜ市場にこのように強い影響を与えているのか──。

インフレはさまざまな政府機関がいくつもの方法を駆使して測定している。経済が拡大し続ける限り、市場はそれを材料視するだろう。

●インフレとは何か

インフレは消費購買力を弱める一方で、ある一定水準のインフレは経済回復を反映したものであり、消費者への影響は賃金上昇によって相殺され得ると考えられている。

米国政府は月ベース、四半期ベースでインフレ指標を発表している。主なものに、消費者物価指数(CPI)や個人消費支出(PCE)価格指数がある。CPIとPCE物価指数の構成は異なり、時間の経過とともにパフォーマンスも異なる。

米労働省労働統計局(BLS)が毎月発表するCPIは、消費者がモノとサービスに支払った価格の変動を測定する。BLSのデータは消費者と賃金所得者の消費パターンに基づいている。ただし、地方在住者や米軍属は含まれていない。

CPIは消費者が頻繁に購入する品目の価格に基づいて算出される。世帯調査に基づき、構成品目には相対的な重要性を反映するようウエイトが設けられている。食品やエネルギーのような構成品目は価格変動しやすい。これら2つを除いたものをコアCPIと呼び、インフレ動向を見る指標として使われている。

そのほか、生産者側から見た販売価格の変動を測る卸売物価指数(PPI)がある。

雇用最大化と物価安定を使命として掲げる米連邦準備理事会(FRB)は、商務省経済分析局(BEA)のPCE価格指数を好む。PCEはCPIで除外されている品目を一部含むため、より包括的だと考えられている。BEAによると、PCEは世帯による消費支出を表している。ウエイトは企業調査に基づく。

住宅費のウエイトはPCEよりもCPIの方が大きい。逆に医療費の場合は、CPIよりもPCEの方が大きい。CPI同様、PCEでも食品とエネルギーは変動しやすい。それらを除いたコアPCEが潜在的なインフレ動向を見る指標として使われている。コアPCEは、FRBが2%の物価目標達成に向けて好んで使っている指標である。

●最近のインフレ懸念はなぜ起きたか

2日発表された1月の米雇用統計で、賃金が前年比で2009年6月以来の大幅な伸びとなり、経済が完全雇用に近づいており、インフレの兆しがあるとの見方が広がった。

経済が勢いを増し続けるなら、物価上昇率がFRBの2%目標にさらに近づく可能性がある。だが、個人所得税の税率だけでなく法人税率の大幅引き下げを含むトランプ政権の税制改革によって、すでに完全雇用に近づいているとみられる経済を過熱させ、現在予想されているよりも積極的な利上げをFRBに強いる可能性がある。

市場は現在、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)が25ベーシスポイント(bp)の利上げを決定する確率は87.5%とみている。FRBは今年、3回の利上げを見込んでいる。昨年も3回利上げを実施した。

一部の市場参加者は、パウエル新議長の下でFRBがどれだけ迅速にインフレや市場の混乱に反応するかについて、確信を持てずにいる。3月会合は、パウエル新議長の就任後、初のFOMCとなる。一部のFRB当局者による最近のコメントは、経済が拡大し続ければ、利上げ回数が増える可能性を示唆している。

●インフレは市場にどう影響するか

多くのアナリストは、株価調整の機が熟していたとみている。収益などと比較して企業の株価が割高か割安かを測るバリュエーションが歴史的に見て高い水準に達しており、雇用データも相場を支えるファンダメンタルズの強さを示しているからだ。加えて、インフレも懸念する水準にはまだ達していない。その上昇ペースが穏やかである限り、株式市場は上昇する余地がある。

米国の赤字財政支出と、各国中銀による金融緩和脱却の動きに加え、健全な経済成長が、米国債利回りを4年ぶりの高水準に押し上げている。利回り上昇は、高配当株の魅力を失わせ、同国の企業と世帯の借り入れコストを増加させる可能性がある。そうなれば、経済成長を妨げる恐れがある。

経済が回復傾向にあるなら、通貨は通常強くなる。だが米ドルは、最近の上昇後に4年ぶりの低水準圏にある。FRB以外の各国中銀が緩和策を縮小するとの観測がドル安の一因となっている。

現在懸念されているような、意味のあるインフレ加速を米国経済が示すことができなければ、FRBは利上げにおいて身動きが取れなくなり、ドルは一段安へと向かう可能性がある。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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