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焦点:米宇宙計画に暗雲、スペースXとボーイングに設計リスク

2019年03月02日(土)09時43分

Eric M. Johnson

[シアトル 22日 ロイター] - 米宇宙船計画で競合する宇宙開発ベンチャー企業スペースXと航空大手ボーイングに対し、米航空宇宙局(NASA)が設計・安全面での懸念を伝えたことが、業界関係者や政府報告書で明らかになった。

今年後半に有人宇宙飛行計画の再開を目指す米国のもくろみが、これにより脅かされている。

米国から国際宇宙ステーション(ISS)に向けて再び宇宙飛行士を送り出そうと、NASAはスペースXに26億ドル(約2880億円)、ボーイングに42億ドルを投じて、有人カプセル搭載のロケット打ち上げシステム開発を発注。宇宙飛行士を送り出すのは、米スペースシャトル計画が終了した2011年以降初めてとなる。

巨額を投じたこの商業乗員輸送プログラム(CCP)では、初の無人飛行試験が3月2日予定されているが、NASAは今月、2018年の年次報告書において4つの「重要なリスク項目」に言及した。

ボーイングに対して同報告書は、断熱シールドを展開した際にカプセルに生じる構造的な脆弱性を指摘。スペースXに対しては、2016年の爆発事故を受けたロケットのキャニスターの再設計と、乗員がカプセルに搭乗した状態で燃料注入を行う「ロード&ゴー」プロセスに言及している。また、両社共に「パラシュート性能」が問題だとしている。

「スペースX、ボーイングともに、現在の発射スケジュールに向けては深刻な課題がある」と同報告書は警鐘を鳴らす。

計画を直接知る2人の人物がロイターに語ったところでは、NASAの懸念は報告書に挙げられた4項目以外にも及んでいた。2月初めの時点では、スペースX、ボーイングそれぞれに未解決の技術的懸念が30─35件、リスク要因として挙げられていたという。

ロイターでは、これらのリスク項目すべてについて内容を確認することはできなかった。だがこの件に詳しい関係者によれば、両社ともにこれらの懸念の「大半」に対処してからでなければ、宇宙飛行士を、そして最終的には観光客を宇宙に送り込むことはできないという。

NASAのリスク・データベースは、情報収集や試験、そしてスペースX、ボーイング両社との共同作業を含む厳格な認証プロセスのなかで、定期的に更新されているという。

ボーイングとスペースXが開発しているシステムは、近年すでに数度にわたって遅延している。もっとも、数十億ドルを投じて建設される、地球の重力圏を離脱できる宇宙船の複雑さを考えれば、計画の遅れはこのセクターでは珍しくもない。

NASAのジョシュア・フィンチ広報官は、守秘義務に触れ、ボーイングとスペースXに関する技術的な質問は全てそれぞれの会社に問い合わせるよう回答した。ただ、「飛行の安全確保は常にスケジュールよりも優先される」と述べた。

ボーイングの広報担当者ジョシュ・バレット氏は、1月実施した構造試験プログラムを完了した時点で、カプセルの構造的脆弱性というリスクは解決したと述べた。ボーイングはその他多くの問題に取り組んでいるが、「構造的に大きなシステム変更を要するものではない」としている。

「当社で出ている数値は、NASAの安全基準を上回っていることを示している」とバレット氏は言う。

スペースXの広報担当者ジェームス・グリーソン氏は、NASAと協力しつつ、「これまでで最も安全で先進的な有人宇宙飛行システムの1つを開発した」と述べた。

グリーソン氏は、「スペースXにとって、乗組員の安全な飛行以上に重要なことはない」とした上で、それが「宇宙飛行を夢見る人に道を開くという当社の長期目標の核心」であると述べた。

米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)によって設立されたスペースXは、画期的な再利用可能ロケット技術によって、ロケット打ち上げコストを削減。一方、ボーイングの宇宙関連事業は、1960年代の米国初の有人宇宙飛行計画にさかのぼるものだ。同社は世界最大の飛行機メーカーでもある。

期限は迫っている。米国は現在、ロシアに1回あたり約8000万ドルを払って、地上から約400キロの軌道に浮かぶ総工費1000億ドルの研究拠点であるISSまでスタッフを運んでいる。

だが2019年以降は、製造スケジュールやその他の要因により、ロシアの宇宙船に米国の乗員を搭乗させる余裕がなくなる。NASAは先週、米国からのアクセスを確保するため、今秋と2020年春にあと2人分の枠を買い取ることを検討していると述べた。

この追加枠確保の計画が発表される1週間前、NASAの安全委員会は連邦議会に対し、有人飛行プロジェクトの遅延により米国によるISS利用が危うくなる場合に備え、「緩和計画」を立案することを求めた。これは米政府監査院が以前指摘した懸念を踏まえたものだ。

NASAはスペースXによる3月2日の無人飛行試験に向けた飛行準備状況の点検を22日実施し、スペースXが有人飛行に関して提起された問題に取り組むのと並行して、NASAはスペースXによる無人飛行試験の実施を許可した。

<パラシュートの弱点>

NASAは、スペースXが過去にISSへの貨物輸送用に設計したカプセルと人間を運ぶために設計した新たなカプセルの間で、設計上の矛盾をいくつか確認した、とプロジェクトに詳しい関係者3人は語る。

スペースXの飛行試験がこれほど間近に迫っていることを考慮すれば、カプセルが超音速で地球の大気圏に突入する際に展開される巨大なパラシュートの設計に関する問題など、指摘されたリスクのいくつかはめったにないものだと関係者2人は言う。

複数のパラシュートが展開されるタイミングや、パラシュート同士の相互作用を巡り、パラシュートの性能や、乗員の安全を確保するべくカプセルを十分に減速できるかどうかについての懸念が生じていると、2人の情報提供者は言う。

グリーソン氏によれば、スペースXではこれまでCCPに向けて17回のパラシュート試験を完了し、宇宙船「クルー・ドラゴン」の第2回実証飛行の前にさらに10回の試験を行う予定である。また同氏は、パラシュートシステムは余裕を持って設計されており、1つのパラシュートが機能しなくてもカプセルは安全に着水できると述べている。

NASAの安全委員会は年次報告書のなかで、スペースXにパラシュートシステムの再設計を要請する可能性があると述べている。関係者2人によれば、再設計となればさらに試験を重ねる必要が生じ、計画はさらに数週間ないし数カ月遅れることになりかねないという。

またNASAは、スペースXのカプセルが海に着水した後、直立ポジションを取りやすくするシステムに設計上の問題があり、過剰な浸水のリスクが生じていることを発見した。これは2人の業界関係者から提供された情報だが、NASA当局者もこれを認めている。

スペースXのグリーソン氏は、「クルー・ドラゴン」の外殻には耐水性があり、それ自体に浮力があるため、着水後に乗員にリスクが生じることはないと述べている。

<さらなる遅延リスク>

NASAは今月初め、スペースXが「クルー・ドラゴン」の無人飛行試験の実施目標を、2月23日ではなく3月2日に現在設定しており、宇宙飛行士が搭乗する飛行は7月を目指していると発表した。この遅延について、ハードウェアに関する試験その他の作業を完了する必要性など、双方の企業に関する一般的な懸念を挙げて説明した。

NASAによれば、ボーイングの無人宇宙船「スターライナー」の飛行は4月より早くはならず、有人飛行は現在8月に予定されているという。だがNASAの報告書によれば、このスケジュールも今や達成が危うくなっている。

ボーイングのバレット氏によれば、同社が直面する課題としては、昨年行った打ち上げ脱出システム用エンジンの試験中に、テスト台に腐食性の推進剤が漏れた問題などがあるという。この事故はバルブの欠陥によるもので、ボーイングではすでに設計を見直し、サプライヤーに改めて発注しているが、新しいバルブも再試験が必要であるという。

NASAでは、試験飛行はいくつかのリスク項目を解決するために必要なデータを収集する方法の1つでもあると述べている。

「スペースXもボーイングも、安全性という点で、同じ程度の課題を抱えている」と米政府関係者は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
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