ニュース速報

アングル:マクロン仏政権、いまだ拭えぬ「ベナラ事件」の脅威

2019年02月17日(日)08時20分

Luke Baker and Julie Carriat

[パリ 13日 ロイター] - マクロン仏大統領はこの4カ月間、反政府運動「黄色いベスト」の脅威を抑え込むための対応に追われている。だが、これとは別に、政権に長期にわたって暗い影を落としている問題がある。

それは「ベナラ事件」だ。ベナラとは、エリゼ宮(大統領府)の元警備責任者で、マクロン大統領のボディガードを務めていたアレクサンドル・ベナラ容疑者(27)のことだ。

昨年5月、ベナラ容疑者がメーデーのデモ参加者に暴行を加えている映像が公開され、スキャンダルに発展した。9カ月たった今でも、この事件を巡り細切れのリーク情報が報じられ、議会で証人喚問が開かれ、警察の捜査も継続するなど、仏政権の足元を脅かし続けている。

仏上院では今週、ベナラ容疑者とロシア人富豪との私的なセキュリティ契約についての喚問が行われた。ベナラ容疑者は慎重な受け答えに終始し、法相から、もし宣誓下の証人喚問で嘘をつけば、最大5年の刑に処される可能性があると警告を受けたほどだった。

マクロン大統領の不正を示すものは何も出ていないが、議会はどの段階で誰が何を把握し、なぜ早期に対応が取られなかったのかについて調査を続けており、フィリップ首相は12日、改めて透明性へのコミットメントを強調せざるを得なかった。

「司法当局が然るべき捜査を行い、もし不法行為が判明すれば、処罰が下される。当然のことだ」と、フィリップ首相は議会で語った。「首相府は、全ての疑問に完全な透明性をもって答え、司法の独立を尊重する。これは保証する」

ベナラ事件が起きる前からマクロン大統領の支持率は下がり始めていたが、大統領府が情報を隠しているとの疑惑から支持率は21%にまで急下降した。BFMテレビの調査では、73%の人がベナラ事件でマクロン氏のイメージが傷ついたと回答している。

閣僚も、同事件がマクロン大統領の5年の任期に及ぼす影響についての懸念を公言している。ある閣僚はロイターに対し、エリゼ宮はこの「ナンセンス」を収拾すべきだと指摘。ベナラ容疑者のような若くて経験の浅い人物に大統領府内で影響力を持つことを許した判断に不信感を示した。

<ロシア・コネクション>

ベナラ容疑者がデモ参加者に暴行を加えている様子が撮影されたのは5月1日だが、仏メディアがビデオを報じてスキャンダルに発展したのはその2カ月後だった。

当初、ベナラ容疑者は2週間の停職処分を受けたが、エリゼ宮が2カ月も事件を放置したことに批判が高まり、解雇された。

マクロン大統領はスキャンダルを「コップの中の嵐(ささいな事)」と呼び、判断ミスを謝罪。スキャンダルの早期鎮静化を願った。

だが、そうはならなかった。

野党側はエリゼ宮の対応の遅さを批判し、議会による捜査に着手した。

その後、マクロン大統領の側近でもあるコロンブ内相が5月2日に映像の存在を把握していたことが明らかになった。同内相は、議員からの集中砲火を受けて2カ月後に辞任した。

ベナラ事件はその後、さらに規模が拡大している。

エリゼ宮が発行した外交パスポートの使用について捜査を受けたことに加え、上院では解雇後のセキュリティ・コンサルタントとしての仕事についても疑問が呈され、在任中から同様の仕事を請け負っていたかどうかについても調査を受けた。

ベナラ容疑者は11日、ロシアの有力鉱山事業主イスカンダル・マフムドフ氏のことは知らなかったと仏調査報道サイト、メディアパーの報道を否定。同サイトは12月、マフムドフ氏がフランス滞在中の家族の警護を依頼する契約を仏セキュリティ企業と結び、当時エリゼ宮に勤務していたベナラ容疑者が、同契約を仲介したと報じた。

マフムドフ氏の側近と連絡を取ったことがあるか尋ねられたベナラ容疑者は、「以前の同僚や職場、雇用主を通じて、たくさんの人を知っていた」と答えた。

マフムドフ氏側は、コメントの求めに応じなかった。エリゼ宮は、司法の捜査が続いているのでコメントできないとしている。

メディアパー報道を基に、フランス会計院は先週、マフムドフ氏を巡る汚職容疑について捜査を始めたと発表。ただ、現段階ではマフムドフ氏側の不正を示すものはないという。

マクロン大統領の側近で、ベナラ容疑者とも親しかったストラテジストのイスマエル・エメリヤン氏は、3月末での退任を発表。政府高官がまたも辞任に追い込まれた格好だが、エメリヤン氏はベナラ事件との関係を否定した。

一方のマクロン大統領は、「黄色いベスト」運動の勢いをそぐために有権者との対話を続けており、支持率は34%に回復している。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政

ワールド

米特使「ロシアは時間稼ぎせず停戦を」、3国間協議へ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中