ニュース速報

焦点:トランプ大統領の「非常事態宣言」、法廷闘争に火蓋

2019年02月16日(土)08時40分

Ginger Gibson and Jan Wolfe

[ワシントン 15日 ロイター] - トランプ米大統領は15日、議会の承認を得ずにメキシコ国境の壁建設費用を確保するため、国家非常事態を宣言。民主党は憲法違反として、提訴する構えを見せているほか、共和党内でも見解が分かれている。

法廷闘争に発展するのはほぼ確実で、2020年の米大統領選まで尾を引き、トランプ氏に対する批判勢力を勢いづかせる可能性がある。

法律学者らによると、法廷闘争における争点は(1)メキシコ国境に本当に非常事態が存在するか(2)税金の使途を巡る大統領の裁量権──の2点に集約されそうだ。

●大統領の裁量権

税金の使い道は通常、議会で決めることが憲法で定められている。

しかし1976年に成立した「国家非常事態法」により、国家が非常事態に直面した際には議会採決を経ずに大統領が資金の使途を決めることができるようになった。法律専門家によると、この法律は「非常事態」を定義していないため、非常事態宣言に際しての大統領の裁量は大きい。

同法はまた、議会に非常事態宣言を無効化する権限を持たせているが、その場合には上下両院が行動を起こす必要がある。現在、上院はトランプ氏と同じ共和党、下院は民主党が支配しているため、実現は難しそうだ。

1979年以降、国家非常事態宣言が発効したのは約30回で、79年のイラン米大使館人質事件や2009年の豚インフルエンザ感染拡大などが含まれる。

●乏しい前例

大統領の国家非常事態宣言を巡り、法廷闘争が行われた前例はほとんどなく、闘争の行方について専門家の見方は分かれている。

テキサス大の国家安全保障法教授、ロバート・チェスニー氏によると、トランプ大統領の宣言に対する訴訟は成功するかもしれないとしつつ、裁判所は通常、国家安全保障に関しては大統領の顔を立てるとの見方を示した。

ブレナン・センター・フォー・ジャスティスの弁護士、エリザベス・ゴイティン氏は、大統領の国家非常事態宣言に関するさまざまな法律に鑑みると、壁の建設は許容できないことを示す強い論拠があると述べた。

米最高裁は、下院の個々の議員がホワイトハウスの行動について提訴する権限を否定しているが、下院全体としての提訴であれば法的権限が強まる可能性がある。

またチェスニー氏によると、トランプ氏が軍事費を壁建設に振り向ける結果、事業契約を破棄されることになる個人や企業も、同氏を提訴する可能性がある。壁建設のために土地を接収される土地保有者も同じだ。

仮に非常事態の存在が認められたとしても、トランプ氏は現実的な問題に直面する。本年度の軍事建設プロジェクト予算、約104億ドルの中で、壁建設に回せる資金を確保する必要があるためだ。

米軍は、軍事建設予算にどれほどの余裕があるかを公表しておらず、壁建設を大きく進めるだけの資金が残っているかは不明だ。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中